「さあ一足よ 1」
「さあ一足よ 1」








現在、全世界はキラの脅威に覆われている。

死刑になってしかるべき、と思われる犯罪者でも、法治国家では
せいぜい数十年刑務所に入る程度の量刑、しかも執行猶予や
減刑などで、数人殺しても十年かそこらしか受刑しない者も珍しくない。

キラとは、そういった犯罪者を遠隔で次々と殺している謎の存在だった。
超能力者なのか、はたまた超組織的犯罪なのか。
神か、それとも悪魔か。
世間の噂はかまびすしい。

そんな中、颯爽と登場したのが「世界の切り札」と称される探偵、「L」だった。

Lは突然公共電波を使ってキラに呼びかけ、
キラが人間である事、彼が日本の、しかも関東に居た事を
軽々と証明したのだ。


……だがどういう訳かそれ以降、Lはキラ事件に公には関わらなかった。
諸外国の警察は、対岸の火事とばかりに様子見に入ったし、
日本警察が何とか協力を仰ごうとしても色よい返事がない。

L=キラ説が出て来るのも、無理もなかった。




「キラに関しては、現在全く手詰まりなんだ」

「まぁ、それもそうだろうね。殺人手段すら分からないんじゃ」


警察官である父が、遂に家で愚痴を漏らした。
キラ事件の担当だとはっきりは言わないが、言っているような物だ。
……まぁ、捜査本部のPCをハッキングしてるから知ってるけど。


「Lがキラだとは思わないが、キラと関わりのある可能性は否定できないし
 そうでなくとも、何か彼なら打開策を持っていそうだ。
 何とか捕まえられると良いんだが」


「キラ捜査班」が、いつの間にか「L捜査班」になってしまっている。

だが、確かに警察はまずLを捕まえた方が良いと思う。
……僕個人の為にも。


「Lのやり方を真似するみたいだけど……囮作戦はどうだろう?」

「囮?どういう事だ?ライト」

「Lも日本警察が血眼で自分を探しているのは分かっているだろうから
 警察とは関係のない所で、『キラ』を出現させるんだ」

「偽物のキラか……」


さすが僕の父。話が早い。


「そうだ。勿論正体不明でも良い、偽キラの声明をテレビで流すとか」

「しかしそれでは、徒に世間を騒がせてしまう。
 警察としてそんな事は出来ない」

「ならば……そうだな、キラが出てくる芝居か何か上演したら?
 タイムリーだから注目が集まる」

「そうだろうか」

「しかもそこに、本来警察しか知らない情報を入れて置いたら、
 一般人には単なるフィクションに見えるし、Lにはキラの手掛かりに見える。
 それどころか、上手く行けばキラ本人をおびき出せるかも知れない」

「悪くないかも知れないな。さすが私の息子だ。
 明日、早速捜査会議に掛けて見る」


……Lは確かに賢い探偵かも知れない。
だが、僕も負けてはいないつもりだ。

Lは、殺人の手段すら知らない。
僕が自白するか、デスノートを押さえる以外、キラの犯罪を証明出来ない。
状況は、明らかに僕に有利だ……。




しかし翌日、捜査本部に泊まり込んだ父に電話をすると、僕の案は
却下されたと言う。


「どうしてだ?父さん」

『あまりにも危険すぎる、という事だ』

「どういう意味?」

『L=キラ説はやはり根強い。もしLが本当にキラだったら、
 偽キラや、芝居の関係者がが殺されてしまう可能性がある』

「そんな事を言っていたらキラだって捕まえられないじゃないか」

『それに、Lが本当にコンタクトを取ってきたとして。
 上手くそれがLだと見抜き、捜査本部に誘導出来る自信のある者がいない。
 我々にはLの頭脳は計り知れない』


ちくしょう!
全く、どいつもコイツも腑抜けた奴らだ。


「……僕がやるよ」

『何だって?』

「僕が、キラ役もやるし脚本も書く。それなら良いだろう?」

『良いわけないだろう!』

「大丈夫。僕ならやれる。プロの人にちょっと指導して貰ったら、出来るよ。
 僕の成績、父さんも知ってるだろう?」

『駄目だ。確かにお前は上手くやれるだろう。Lとも渡り合えるだろう。
 だが、万が一Lがキラだったらどうするんだ!
 本物のキラを怒らせる可能性だってある』


……そんな可能性は、ない。

だって。

僕が本物のキラなのだから。


「でも、誰かがやらなければならない事だ。
 そして僕にはそれが出来る力量がある。
 あとは父さんの覚悟だけだよ」


僕が関東に居る事を絞り込んだ手腕を見ても、Lが相当の推理力を持っている事は
疑いようがない。

そして、あれだけ僕を挑発しておいて、キラ事件を忘れた筈はない。
警察には協力しないというだけで、陰でこっそり調べているのは間違いないだろう。

僕がヘマをするとは思えないが。
足下を掬われる前に、始末しておくに越した事はない。
その為には、警察にLを探させるのが一番良い。

ここまで僕が協力するのは予定外だが……。
まあ、一度僕がキラなのではないかと疑わせて、警察の囮だった事を分からせれば
逆に心理的に容疑者圏外に置いてしまうだろうから、結果オーライだろう。


『……分かった。そこまで言うのなら、極秘で上に掛け合って見る』

「もし駄目だと言われても、僕は一人で動くよ。
 善は急げだ。今日中に出来るだけ早く公演出来る劇場を押さえて欲しい」

『……』


結局僕が、極秘に警察の協力を受けてLを罠に掛ける事になった。
分かっていた事だ。
警察は、自分達では怖い事でも自己責任なら一般人にやらせる。
とにかく、都合の良い展開になったと言って良いだろう。





それからは早かった。

内情を知って居るのは、非公式に警察上部から依頼された脚本家一人。
彼がスタッフを集め、勿論僕も制作に携わる事になった。


「だからぁ、コンセプトとしては『八百屋お七』で行くのよ」

「しかしそれではキラ像が……」

「キラの実像なんて結局誰も分からないんだから。
 芝居として成立する事が大事なのよ?ライトちゃん」


だがオカマくさい脚本家は、キラを、若い警官を恋する余りに
超能力を得た少女、というバカっぽい設定に強引に決めてしまった。


「若い刑事の正義感では許せない、法律で裁かれない犯罪者達。
 彼等が全部死ねば彼はきっと喜んでくれるんじゃないかと思って、
 どんどん犯罪者を殺して行くの」

「はあ……」

「でも、やっとの思いで振り向いてくれた若い刑事は、無残にも言うの。
 『後一人、犯罪者が残って居る。僕の前に、許しがたい大量殺人犯が』って」

「それは悲劇ですね」

「でしょー!でしょー!
 実際私、キラって絶対女性だと思うのよねー」


最終的にキラを不幸にする事でキラ賛美の芝居ではないという体裁を守り、
キラを美しく描く事でキラの不興も買わないようにする。
それにはこれしかないと言われると、僕にももう口が出せない。


「で、僕の役は何ですか?その若い刑事ですか?」

「何言ってるのよ!キラ役をやるって事でこの芝居に参加してるんでしょ?」

「いや……」


危険を伴う以上、本物の芸能人や一般の役者を使う訳には行かない。
しかし女性の役というのは。


「ライトちゃんがどうしても嫌なら、関西で売れてるモデルの弥ミサちゃんって言う手も
 あるんだけどね」

「どういう人なんですか?」


脚本家は僕の顔に顔を近づけて声を潜めた。


「彼女、両親が強盗に殺されてるんだけど、その犯人をキラが裁いてくれたって
 信じていて、ちょっとしたキラ信者だって噂よ?」

「なら余計に駄目ですね」

「そう?ならライトちゃんで決まりね!」

「……頑張ります」






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