ルナ 3 「Lって……」 「largeのLではありません」 真顔で答えたのを冗談と取ったのか、口の両端を少し吊り上げたが やはり引き攣ったままだ。 「その……どこまでするつもりなのか知らないけど…… 入れたりするのは、無理だと思う」 「物理的に?」 「そう。物理的に」 「それは locked room という奴ですね。解決せねば」 夜神は唇をわななかせて歯を食いしばった。 私は上から覆い被さり、その下唇を、軽く噛む。 「……どうして、こんな事思いついたんだ」 首を抱きしめて、耳を舐めると、髪から少しシャンプーの匂いがした。 「ゲイじゃないって、言ってたのに」 腹、胸を撫で、乳首を指先で捏ねると、びく、と肩が震える。 「女の子みたいな名前だったからって、関係ないだろ。 名前だけで欲情するのかおまえは」 「今の内に征服しておきたくて」 鳩尾に口を付けている、私の頭上で夜神が首をもたげた気配があった。 「二年前の対局と今日の対局を経て、いずれあなたが私を越える日が 来ると思いました」 「どうだろう。今はチェスの勉強もしてないし」 「今後はするつもりでしょう。さっき次は勝つって言ったじゃないですか」 「言ったけど……それだけで?」 答える代わりに睾丸を揉むと、夜神はひゅっと音を立てて息を呑んだ。 「はい。私があなたの上に立っていたという、証を残したい」 「そんな物、Lは世界一の名探偵だ。僕は一介の無名の学生だ。 誰の目にも明らかじゃ無いか」 「あなたの目に、明らかにしておきたいんです」 「……」 「これからの人生、あなたはセックスする度に今日の事を思い出す。 Lという、越えられない存在があった、と。 そういう風にしたいんです」 「……」 『次は勝つ』……。 たった一言の失言でこうなったのかと、存分に悔やむと良い。 だが、本当は。 目の前の柔らかいペニスの、先端に舌先をつける。 自分でも意外だったが、さほど嫌悪感はなかった。 しばらくちろちろと舐めていると、がたがたと震え始める。 私が本気であるという事実が身に迫ったのか。 と思ったが、すぐに目の前の茎がゆるりと勃ち上がり、思わず頬が緩んだ。 勃起を、耐えていたのか……。 私の口で興奮させられるのが、余程の屈辱だという事だ。 となれば、私のモチベーションも上がる。 私は積極的にあらゆる角度から舐め上げ、先端を口に含み、 夜神を刺激し続けた。 「竜崎!ちょっと待ってくれ!」 「……」 「駄目駄目、駄目だって、ちょ、あっ……!」 やがて夜神は、私の髪を掴んだまま、達した。 「ご、ごめん!ちょっと、出して!」 バカみたいにティッシュを何枚ももぎ取って、私に差し出す。 こんなに慌てている夜神を見たのは初めてだ。 私は夜神の目を見つめながら、掌に出した。 多く見えるが、殆ど私の唾液だろう。 「いっぱい出ましたね……」 「……」 夜神は顔を赤くして、恥じているとも怒っているともつかない、 何とも言えない表情をした。 「恥じる事はありません。私が、出させようとしたんですから」 「……」 「次は、私に出させて下さい。もっと足を開いて下さい」 「……」 恥じ入るかと思ったが、夜神はすっと表情を消して体の力を抜き、 素直に足を開く。 「ご協力ありがとうございます」 わざと巫山戯てみたが、こちらの方を見もせず、無表情に ただ天井を睨んでいた。 なるほど、本気で追い詰められたら「自我」をoffに出来るタイプか。 今の彼は、電源の入っていないコンピュータ、もとい人形だ。 それでも。 私が吐きだした物を指先に付け、尻の穴に塗り込むと、さすがにびくん、と 震える。 「……よく、他人のそういう所、触れるな……」 「その前に『よく他人のそういう所、舐められるな』じゃないですか?」 「……」 「後で手は洗います。司法解剖と思えばどうという事はありません」 「……」 締まろうとする括約筋を両手の指で押さえ、輪ゴムのように広げていると やがて力が抜けてきた。 体も人形に徹すると、腹を括ったか。 「では、入れます。十分に拡張しましたし、あなたの精液が塗り込んであるので 滑りも良いと思います」 「……どうしても、か」 「夜神くんらしくないですね。腰を持ち上げて下さい」 動きやすいように腰の下に枕を入れ、足の間に自分の腰を入れて 久々に夜神の顔を見ると、血の気が引いて、本当に死人のようだった。 尻の穴に、ぴたりと先を当てる。 少し押したが入らないので一旦引き、また力を込める。 それを何度も繰り返した。 「入らないと、思う……」 「あなたが力を抜かないからです。力を抜けば先は入ります。 そこから先は、あなたのお尻の穴のポテンシャル次第ですが」 「……」 わざと力を込めているのかどうかは分からないが、そう言うと先が緩んだ。 今のうちに先だけでも通してしまおうと力を込めると、夜神は「がっ」と言うような、 声にならない呻き声を上げた。 「痛そうですね。すみません」 「う……ごか、すな……」 シーツを握りしめた手首を取ると、確かに力が入っている。 脈を診ると、マラソンランナー並の早さだった。 しばらく静止した後、 「少し、マシですか?」 答えがないので少しづつ腰を押し込んでいくと、夜神の中は少しづつ 私を受け入れた。 やがて、腰骨に尻の冷たく滑らかな肉が当たる。 「全部、入りました」 そう言って顔を見ると、苦しげに顰められていた眉が、開く。 と共に、その強膜が充血して来た。 ……驚くべき事に、夜神は泣いていた。
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