恋煩 4 それから夜神は、岸に上がっても宿舎に戻っても、私と目を合わせなかった。 偶に合うと頬を染めて視線を外す。 少し触れただけで、過剰に反応する。 弱っている……。 つけ込むなら、今だ。 折しも、これは私にも予想外だった事だが、夕食後に広い部屋に移動できる。 「これだけの部屋なら、我々の初夜に相応しいですよね?」 「流河。さっきも言ったけど、僕は疲れていて」 「嫌なんですか?」 「……」 嫌とは、言えないだろう、夜神月。 夜神は警戒心を隠しもせず、身体を固くしてベッドに座っていた。 私は、野生動物が昆虫を捕らえる時ようにゆっくりと、静かに動いて……彼を押し倒す事に成功した。 夜神。 おまえを抱きたい心から愛している。 と、思わせてやる。 だから心を開け。 キラだと、言え。 我ながら吐き気がする程甘い睦言を囁きながら。 愛撫をしていると、眉を寄せてそれに耐えていた夜神が突然真顔になって目を開いた。 「おまえは僕に……Lになる事を求めているのか?」 ……おまえはLにはなれない。 Lは、天にも地にも私一人しかいない、必要ない。 だが、こちら側に来い。 私に心を許し、全てを告白し……断頭台を甘んじて受け入れろ。 そんな思いを隠して、せいぜい戸惑った顔をして見せると。 彼は突然。 「僕は、キラだ」 「……」 やっ……た!……か? 聞いたかワタリ、と叫びたくなったが、いきなりの都合の良すぎる展開に。 さすがに用心しながら次の言葉を待つと。 「と、おまえが言ったんだろう?」 「……」 ……この、ガキが! 「流河。僕が何と言っても、おまえの中で僕達は敵同士だ」 「そうですが、」 「僕はキラじゃない。だがそれをおまえが納得するまでは僕達の関係はお預けだ」 「……」 私がおまえをキラだと言い、おまえはキラではないと言っている、この関係を逆手にとって。 上手く逃れたつもりか? ……殺す。 勿論本当に殺す事は出来ないが、おまえを滅茶苦茶に壊してやる。 おまえを完全に私の物にする。 私は片足をベッドから下ろし、盗聴器の付いた靴を、ベットの下に蹴り入れた。 「……ごちゃごちゃと煩いですね。さっきから」 「え?」 「大人しく口説かれていれば良い物を」 夜神が怯えて引いた顔を見せたので、顔だけ取り繕う。 「あなたが好きです。愛しています。それは本当です。 でも私も、男なんです」 「……」 「お願いです。これ以上、焦らさないで下さい」 取り繕っているつもりではあるが、手は止まらない。 夜神のシャツの、ボタンを外す手間を掛ける気にもなれず引き裂く。 性的な興奮から来ている物だと勘違いしてくれれば良いが。 「や、やめ、」 「止めません。昼間以上に感じさせてあげます。 何度でもいかせます。 二人ともドロドロになって溶けるまで、あなたを愛します」 裂いたパジャマのシャツは、全部脱がさず手首を縛って。 それを、ベッドヘッドの飾りに結びつけて。 「やめろ!」 「大きな声を出したら、先輩方が来ますよ?」 「それが狙いだ」 私は怒りを静めるために一旦離れ、深呼吸した。 それから、手拭いで有無を言わせず猿轡をする。 全部脱がせると、その白い肌は……まるで女のようで。 今の状況とは無関係に、私は少年の身体に少し見惚れた。 「気持ち良いでしょう?昼間の余韻が残っているでしょう?」 喘ぐ夜神を言葉で嬲りながら、全力で外から中から刺激する。 一応の抵抗は見せているが、やはり呆れるほどに簡単に快感に堕ちた。 彼の痴態に、私も語るべき言葉を失い、ドイツ語に切り替える。 どうせ聞いていないのだ、何を喋って良い。 そして最終的に夜神の身体は、私を受け入れた。 泣きながら絶望した顔をしていたが、驚くべき事に、初めてとは思えない程に肌が馴染む。 その事に、一番戸惑っているのは夜神自身だった。 私も相手がキラだという事を今は忘れ、楽しむ事にする。 そう、自分で決めないと、私の方が持って行かれそうだ……。 夜神が射精して気絶した後も、私は腰を止める事が出来なかった。 乱暴に猿轡を外し、夜神の頭を掴んで、まるで空気を求めるようにその唇を貪りながら。 達しても尚、硬度を失わない自分の欲望を、夜神に叩き付け続けた。 意識を取り戻した夜神は、再び自分に猿轡をするよう要求した。 「じゃないと、声が、出てしまう。 きっとあらぬ事を口走ってしまう……」 「……」 キラだと、自白しているような物だが。 盗聴器を自分で殺してしまった今、告白されても無意味なので、彼の言う通りもう一度猿轡をしてやった。 今だけは「L」を辞めて。 出来の良いダッチワイフのような目の前の身体に、溺れる。 その事を、私は自分に許した。
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