恋煩 3
恋煩 3








その時は、人前では今まで通りに振る舞うと約束させられただけだった。
しかし夕方にまたチャンスが訪れる。
雨の後の自由時間だ。
また頭の中で建物の間取り、周囲の状況を走査して使えそうな場所を検索する。

……ボート。
確か、湖畔にボートを浮かべてある筈だ。
本来は岸に上げてあったが、私の手の者が使える事を確認して湖に浮かべておいてくれた筈。


「昨日の肝試しコースにでも行ってみますか」


そんな風に夜神を誘導して、私は二人でボートに乗る事に成功した。


さて。
実際乗ってみると、水は不自然な程に透明で深い底までがよく見える。
またその冷たさを思えば、ある程度沖まで行って落ちれば命を失う危険もあるだろう。
思った通り、都合が良い。

そこまでする必要が、そんな危険を冒す必要があるのか、とワタリなら言うだろうが。


……夜神に、私を湖に突き落として殺して貰おう。


それが目的だった。
勿論死ぬつもりはないし、落とされそうになっても阻止するつもりだが。
上手く実行してくれれば、早速逮捕出来る。

もし湖に落とされてボートで逃げられてしまえば……凍えて溺れ死ぬかも知れないが。
その場合もやはり、盗聴器で夜神のした事は明るみに出る手筈になっていた。

とは言え、私が本当に落ちそうになったら、絶対に夜神も引き込んでやるつもりだ。
そうなれば二人で死ぬ可能性もあるが……。
一人で死ぬよりは、キラと心中した方が世のためという物だろう。

いずれにせよ、夜神の方はこれは私を葬る絶好のチャンスだと考える筈だ。


「……夜神くん、死蝋って知ってます?」

「ああ、死体が腐らず蝋化して、永久に姿を保ち続ける、というやつだろ?」

「はい」

「……死蝋が出来るのは、こんな場所なんです

「……」


夜神は、薄気味悪そうに湖の底を覗き込んだ。
私は両手にオールを持っている。
突き落とすなら、今だぞ?


「夜神くん、水の底を見てみて下さい」

「?」

「初代学長の親友が、今も恨めしげに水面を見上げているかも知れませんよ?」

「……」


駄目押しに誘いを掛けてみたが、夜神は軽く私を睨んだだけだった。


「やめろよ、馬鹿馬鹿しい。
 それに波が立って、もう底は見えないよ」


動かない、か。
その時、予想通り霧が出て来た。
水面から、もやが立ち上る。
最大のチャンスが来た。


「我慢出来なくなりました」

「はぁ?!何が!」

「あなたを、体ごと私の物にするのは夜までお預けだと思っていましたが
 こんな風に二人きりになれたのは天の采配では?」

「待て待て待て!駄目だ、いくら何でも危ないだろ」


それが狙いだ。
おまえは私を、殺さざるを得ないだろう?


「ちょっと待て!『本当に結ばれる時まで取っておく』とか言ってなかったか?
 こんな所で、その、初めてなんて、ちょっと……」


……気色の悪い事を言う。
本気なのか?

私は少し考え、ポケットに入れっぱなしになっていた日本手拭いを取り出す。
注意深く、しかし気付かれないように真ん中に一筋、布一枚だけになる部分を作った。
それで自分に目隠しをする。
初歩的な手品だが、これでぼんやりとだが夜神の動きが見て取れた。

それでも夜神の目には、不安定なボートの上で視力を失った、いかにも頼りなげな男が映っている筈だ。

ここまでハンディを付けてやったのだ。
さあ、どうする?

ボートの上でにじり寄ったが、夜神は……私を攻撃しなかった。

仕方なく手探りの振りをしながら彼のジーンズと下着を下ろす。
そこまでしても、夜神は全く動かない。

……そこまで用心深いのか?
それともまさか、待っているのか?
心の中で軽く眉を顰めながら睾丸や陰茎に触れたが、興奮している様子はなかった。
やはりゲイではなかったらしいが。

不発、か。


「流河、マジで、」

「手触りが気持ちいいです。が、全く興奮していませんね」


言いながら舐めると、彼は身を捩った。


「ちょ!」

「静かに。舟がひっくり返ります」

「……!」

「私、本気です。全く見えてませんから、舟から落ちないように自衛する事すら出来ません」


さりげなく睨め上げたが、夜神はやはり動かない。


「あなたはただ目を瞑ってじっとして居れば良いんです。
 二人で死蝋になって、永遠に湖底に沈みたく無ければ」

「冗談……」

「私はそれも悪くないと思いますが」


水死が好みではないのか、そもそも自分で手を下す事自体が宗旨に反するのか。

私は仕方なく、夜神の精神を攻撃する方向に転換して本格的に舌を使った。
睾丸に触れながら、吸い、舌を絡め、唇で扱いているとさすがに勃起してくる。

だがそれは、奇妙な征服感をもたらす感覚でもあった。
今回はおまえを落とす事も殺す事も出来なかったが、その代わりに。

おまえの遺伝子を、何億か殺してやる。


「あ、ああ……もう、駄目だ……あ、あ、あ、ああ、」


夜神は意外にも快感に弱いらしく、腰を浮かせて尻をひくつかせていた。


「ううう……んっ!んっ、嫌、ぁ、」


女みたいな声を出して、涙を零して。


……欲求としては一般的だけど、それを叶える方法としては
   全く一般的ではないね。
   あと、自分が捕らえるべき犯罪者にそれを求めるのも……


昨夜の冷静な、夜神の声を思い出す。
……私は、勃起していた。
自分が求める相手に、同じように自分も求めて欲しい。
その感覚は、キラとLの関係にも似ていないか?


「んっ、あ……ちょっと、止まっ……あ、ああっ!」


夢中になって動いていると、口の中に、生臭い味が広がった。




私に射精させられて、泣きながら太股を痙攣させている夜神はなかなか見物だった。
目隠しに油断して、こちらに無防備な尻を曝してくれている。

教会で感じた、残虐な思いが再び浮上しているのを感じる。

このまま夜神を苛んでも、彼はきっとここでは私を殺さない。
キラである事を白状もしない。

だからこれ以上の行為は無駄だ。
理性は分かっているのに、私の手は夜神の足に伸びていた。


「さっきみたいに良い子にしていて下さい、夜神くん」

「……」

「他に選択肢はありません。分かりますね?」

「勘弁してくれ……頼むから」

「教会で誓った事を、忘れたんですか?」


そうだ。おまえは私に借りがある。
友好的な関係を続けていきたいのだろう?
私を始末する為に。


「分かった……分かったから、そっと、優しくしてくれ……。
 急に触られると、痛いんだ」


本当に、初夜みたいですね。

などと言いそうになって慌てて飲み込む。
何を……動揺しているのだ私は。

それからは、私は夜神の性感を刺激する機械に徹した。
私に感じさせられればさせられる程、夜神は屈辱に震える。
心が弱る。

尻の中から前立腺を小刻みに刺激し、陰茎を咥えると、夜神は私に見られているとも知らず喘ぎ、見苦しく乱れていた。
生命感のない死の湖に。
十億以上の夜神の精子を、私は吐き出した。






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