女か虎か 10 「竜崎、まずはここに書かれている人達の名前と犠牲者の名前 照合してみるよ」 「えっ……はい……まあ、そうですね……」 勝った……! 僕は、キラだった。 記憶がない間、自分が本当に記憶を失ったキラだったら、と何度も考えた。 恐ろしかった。 それが証明されたら、恐らく僕は自分の命を絶つだろう、と思っていた。 馬鹿な事だ。 絶対にバレない殺人手段。 僕のお陰で世界は平和に回る。 自分の死を含め、キラを止める、という選択肢の方がおかしい。 それこそ世界に対する冒涜だ。 僕は新世界の神になる。 その為には、後は腕時計に仕込んだデスノートの切れ端に、火口の名前を書くだけ。 今だ……今しかない……。 「火」 ああ、少し大きかったか。次の「口」を小さくすれば良い。 「口」 画数が多いのは「卿」だけだ……これさえ潰さずに書いてしまえれば、後は 「卿」 介だけだ。 上、開いてたっけ?くっついてたっけ? いや、そんな事どうでも良い。 その位の書き損じではデスノートの効力は失われない事は確認済みだ。 「介」 やった!…… これで火口は、死ぬ。 後に残るのは、僕がキラでない事を証明するこのデスノートのみ。 一生の内で一番長い四十秒だ……。 「竜崎、このノート、科学分析とかしたら何か出るだろうか?」 「…… 『夜神くん』らしくないですね」 ? どこか、不自然な。 軽く笑いを含んだような声音に、思わず振り向く。 ……Lは、真っ直ぐ、こちらを向いていた。 いつから? 僕が火口の名前を書いていた時、から? 「科学なんて越えてますよ、それは」 「……ははっ。それもそうだ」 気のせい、か? 僕はノートを持ち続け……火口は、死んだ。 捜査本部でデスノートを調べ、十三日のルールにより僕は容疑者から外れた。 同時に手錠も外れ、Lと部屋も別れる事になる。 さりげなく休憩を取り、久しぶりの一人の時間を満喫しながら寝室に戻ったが Lがすぐ後からやって来た。 鬱陶しいな……。 Lが僕を騙してセックスしてしまった日以来、僕たちはプライベートでは 殆ど喋っていなかった。 あれは痛恨だったが……。 今思えば会話がないのは都合が良いとも言える。 下手に話せば、記憶を取り戻した事を悟られてしまうかも知れないから。 とにかく今をやり過ごして、タイミングを計ってレムにLを殺して貰わなければ。 「どうしました?月くん」 「いや。一応荷物をまとめておこうと思って」 「今でなくても良いのでは?」 「気分転換だよ」 Lはぺたぺたと歩いて来て、三人掛けのソファの座面にしゃがみ込む。 一人になりないのに……まあ、露骨に無下にも出来ないか。 「竜崎は?何の用?」 「月くんとの生活も今日で終わりだと思うと名残惜しくて」 「そう?部屋は変わるけど、捜査は続けるんだから毎日会えるよ」 「なるほど」 なるほど、って口癖なのか? などとと思いながら服をたたみ直していると、唐突に。 「月くん。私は男ですか?女ですか?」 「……」 何だそれ……。 数ヶ月前の、繰り返しか。 「男だろ……」 「本当に?」 「……僕の顔に、掛けたじゃないか」 「そうでした」 そうでしたって、おまえがそんな事忘れる筈無いだろう? 何が言いたい? 何がしたい? どこか不穏な予感に、全身の毛が逆立つような感覚がある。 駄目だ、いつも通り、平常に振る舞わなければ。 と、心の中で自分に言い聞かせた途端。 「久しぶりにしましょうか」 「え?何を?」 「性行為」 「……」 ええっ? 今?今か? この、火口が死んでデスノートが手に入って死神が現れて 捜査すべき事が満載の、今か? ……そんな訳ないよな。 余程の理由が無ければ、色欲に染まるような事はない。 Lは。 「冗談だとしたら全く面白くない」 「私、本気です」 「なら頭がおかしくなったんだな。 というかゲイじゃないって言ってなかったか?」 「言いましたね」 「……いや。そうか。おまえ……本当は、ゲイなんだな?」 「そんな訳ないじゃないですか」 そんな訳ないって……おかしいだろう! 二回も自分から男を誘っておいて! というか、ゲイでないのならば余計に、何が狙いだ? 「私が何の為にあなたと寝たと思ってるんですか?月くん」 「何の為にって……」 ゲイじゃない……のに、僕と寝た。 整合性のある理由があるというのか?
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