女か虎か 7 無言の僕を、竜崎はひたすら愛撫した。 それこそ、女性にするように。 「夜神くん」 「……なに」 「入れて良いですか?」 「いや!駄目、駄目だ!やめてくれ!」 「そうですか?」 そう言って竜崎は、僕の物を握って小さく息を吐いた。 「……では、私の中に入れますか?」 「……」 それなら……いや、何考えてるんだ。 それも駄目だ。 僕は、意を決した。 竜崎の手をそっと退けて起き上がり、マットレスの上に両膝と手を突く。 「すまない!」 「はぁ」 頭を下げてシーツに額を擦りつけたが、竜崎の反応は鈍かった。 「実は僕は……おまえが女性だと、誤解していた。 信じられないかも知れないが」 「はぁ」 竜崎も起き上がり、緩めたジーンズのままにあぐらを掻いた。 男二人、ベッドの上で反脱げの状態で向き合っているのも何だか妙な状況だ。 「知ってました」 「え?」 「このままどこまで行くのかとハラハラしましたよ」 そう言って、萎えていく物を隠すかのように膝を抱える。 「知って……たって……」 「謝るのは私の方かも知れません。 あなたにキスされて、エレクトして、我ながら焦ってしまいました」 「……」 「いつから私が女性だなんて思い込んでいたんですか?」 「……」 知っていたのか……。 いや、まあ、そうだよな。 僕は暗に、あるいはあからさまに何度も竜崎を女の子扱いして来たのだから。 「監禁前……自首した時」 「という事は私が気付いたのと同時期ですね。 私その時、私は男だと言いましたよね?」 「だから余計に……男ではないのではないかと、思ってしまったんだ」 「それは……いや、そうですか。誤解させて申し訳ありません。 日本語の微妙なニュアンスを読み違えていた私のせいです」 「いや、いやいや。完全に僕が悪いんだ。ごめん」 時ならぬ謝り合戦になってしまったが、膝を抱え、肩を竦める竜崎は、 女の子だと思っていた時よりも、頼りなく見えた。 「でも、その、どうして……」 誤解を解かなかったんだ? そして、僕を女のように誘惑したんだ? 「あなたが、私が女性だと思い込んだままの方が やる気を出してくれるようでしたので」 「……」 「キラを見つけ出せば、私が靡くと踏んでいたでしょう?」 「!」 最悪だ……。 こんな……女ならまだしも、男に、鼻毛を抜かれて利用されていたなんて。 「キラを見つけたから、もう用無し、という事か」 「そこまでは言っていませんが、そろそろネタバラしをしないと 不味いかと思いまして」 「……僕を誘惑したのは?」 「私もそれなりに覚悟していたという事です」 「?」 「あなたが男でも良いと言うのなら、それはそれで受け入れるつもりでした」 ……全く。 何を考えているんだ、この男は。 性別が男であっても女であっても、理解不能なのは変わらない。 「僕がバイセクシュアルじゃなくて、良かったね」 「……はぁ」 どことなく落胆を感じさせる声に、もしかしたら竜崎の方がバイなのではないか? という疑惑が頭をもたげて来た。 そりゃ、理解不能だ。 後で思い返せば狼狽する必要もないのだが、僕は慌てて言い繕う。 「あ、いや!出来ない訳じゃ無くて!おまえに魅力を感じたのは事実だし、 さっきも実はこのままヤッてしまおうかと思ったりもしたけれど、やっぱり」 「……」 僕をまじまじと見つめていた竜崎は、ついと手を伸ばして 僕の肩に掌を乗せた。 「夜神くん」 「あ、ああ」 「もしかして……『夜神くん』はLに嘘を吐かない。合ってますか?」 「合ってるって……それは、うん。 おまえに限らず、出来るだけ正直でありたいと思っているけれど 竜崎には特に、絶対に嘘を吐かないよ」 「そのようですね。さっき急に止めたのも」 「おまえを女性だと誤解していた事を、言わないのは卑怯だと思ったから」 「なるほど」 竜崎は納得したように頷いた後、マットレスの上に立ち上がって ふらつきながら下着とジーンズを直した。 僕は……少しだけ、ほんの少しだけ、何故か残念だと思った。
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