女か虎か 3
女か虎か 3








「竜崎、そろそろ」


日が暮れた頃、松田さんがおずおずと言った様子で竜崎に声を掛けた。


「ああ、もうそんな時間ですか。行ってらっしゃい」

「?」


一体何だ?


「捜査本部の皆さんには、夕食だけはホテルのレストランで食べて貰ってます。
 息抜きは必要ですからね。月くんはどうします?」

「どうします……って」


それは行きたいけれど、良いのか?


「良いですよ。私は行きませんから、手錠の鎖を何百mかの長い物に付け替えて、
 おでこにCCDカメラをつけて貰いますけど」

「行かせるつもりないだろう!いいよ別に」

「そうですか?」


惚ける竜崎を横目にルームサービスを頼み、一人で食べる。
彼女は食事を摂らないらしい。
あれだけお菓子を食べていたらカロリー的には十分だろうが、
栄養バランスは大丈夫なのか気になる所だ。


皆がレストランから戻って来てからもしばらく捜査を続けて、22:00頃に
それぞれ帰宅したり、別に取った部屋へ下がる事になった。
労働基準法も何もあったもんじゃないな。
まあ僕も、キラ捜査ならこれくらいは当然だと思うが。


「えっと……寝室はどうしよう」

「先程言った通り、ミサさんには隣の部屋で寝て貰います」

「いや、僕たちなんだけど」

「この部屋ですけど」

「え?」


思わず、寝室のドアに目を遣る。

嘘だろう?
ダブルベッドはちょっと。


「竜崎。さすがにそれは」

「はい?……ああ、私は椅子で寝ますから大丈夫です。
 月くんに、少しでも安眠して貰う為のダブルです」

「……」


……あ。
そう、か……。

竜崎の表情は全く読めないが。
もしかしたら……。

僕とそうなっても良いと思っていたのか……?

でなければ他人の男と同じ寝室って、ないよな。
だからダブルを取ったのに、僕が難色を示したので、慌てて繕った。
そのように見えた。

だとしたら、僕は彼女に恥をかかせた事になる……。


「いいよ、おまえもベッドで寝ろよ」

「気にしないで下さい。普段から椅子で寝てますから」

「でも」

「本当に。二人で泊まるのにシングルは取れませんし、
 ツインだと一つのベッドが丸々無駄になるので、ダブルにしたまでです」

「……」


どう判断して良いか分からない。
だが、いざ寝る時になればきっとベッドで眠るだろう。
彼女が寝たら、僕はソファに移動すれば良い話だ。


「シャワーは?どちらが先に浴びる?」

「お先にどうぞ」


一応手錠は外してくれたが、案の定竜崎はバスルームの入り口に突っ立って
僕を凝視している。
出来るだけ背を向けて服を脱ぎ、体を洗ったが、落ち着かなかった。


「竜崎は?」

「髪の毛、もう乾きました?」

「ああ」


そう言うと竜崎は手錠の鎖をクローゼットのポールに通し、僕の両手に嵌める。


「では、行って来ます」

「……」


また、自分のプライバシーは死守か。
まあ当たり前と言えば当たり前だし、僕も女性に堂々と目の前で
シャワーを浴びられても困るのだが。

僕だってトイレやシャワーの時は一人でゆっくりしたい。
絶対に、容疑を晴らして早く一人でトイレに行ってやる。



シャワールームから出て来た竜崎は、当たり前のように
応接セットの一人用ソファの上に蹲った。


「では、おやすみなさい」


そう言って、プリントアウトした書類をめくり始める。


「え、そこで寝るのか?」

「月くんは頭悪いんですか?さっき言いましたよ?」

「いや、本当にベッドで寝ないなんて普通思わないだろ」

「私の事は気にせず寝て下さい」


と言われても、女の子を椅子に座らせて自分だけのうのうと
ダブルベッドを占領する訳にも行かないだろう!

僕はベッドから毛布を取り、長椅子の上に陣取った。


「どういうつもりですか?」

「僕もここで寝る」

「……さっきから無駄な気働きをしているようですが、本当に私の事はお構いなく」


僕は聞こえるように溜め息を吐き、無言で毛布を被った。


「おやすみ」

「……月くんは、実に幼稚です……」


聞こえない振りをして目を閉じると、そのまま眠ってしまった。






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