LOVE ME TENDER 7 「だから」 「は、はい?えっと、何の話でしたっけ?」 夜神は目の縁を赤く染めて、私を睨んでいた。 「……おまえとその、するとしたら……僕の、生涯最初で最後の 性交渉、という事になる」 「はぁ」 「キラとして逮捕されたら、死刑になるまでそんな機会はないだろうからな」 「……」 「だからおまえも、それなりに覚悟を持て、という事だ」 「……」 覚悟とは、何だろう……。 そう言えば、父親が婚前交渉を認めないタイプだったと言っていたが。 「はっきり言って下さい」 「し……死刑になるまでで良い。 僕をおまえの、伴侶として認めろ」 は、伴侶……。 「『死が二人を別つまで』というやつですか?」 「……そう」 「えっと、あの、私、男ですが」 「分かってる!だが、そういう相手とじゃなければ、僕はそういう事は出来ない」 「出来ないと言われても、しますけどね」 夜神は目を逸らし唇を噛んだ。 出会った頃より、幼く見えた。 「それから」 「……まだあるんですか」 「その……」 「?」 「や、優しく、して欲しい」 「……」 「セックスが、苦痛ばかりだったなんて。 そんな記憶を持ったまま、死にたくない」 ……そんな。 私は夜神を助ける時。 ワイヤーで空中にぶら下がり、股間に顔を押しつけられたまま約束をした時。 抵抗出来ない夜神を、好きなように犯す事しか想像していなかった。 こんな。 キラを伴侶として遇したり、優しくセックスの手ほどきをするなんて、 想像の範疇の遙か外側だ。 「もう一度確認しますけど。 魅上とは本当に何もないんですか?」 「ないって。本人にも聞いてみろよ。魅上!」 「今麻酔ガスで寝ています。 しかし彼は、あなたに欲望を持っているようですが?」 「ああ……何となく分かってた」 「しかもそれを、利用していた」 「……」 「ですよね?」 夜神はバスローブの襟を掻き合わせ、目を逸らした。 「……あいつは僕を神とか呼んでいたから。 向こうから手を出せないのが分かっていて、いつか落ちるかも知れないと 思わせるような演技はしてたよ」 「そんな所はまるで経験豊かな性悪女ですね」 「仕方ないだろ。利用出来る物は何でも利用する。 僕の作る新世界には、その価値がある」 「まあ、それも幻と潰えましたが」 「ああ……って、ぅわっ!」 夜神の足下を、かさかさとワタリのラジコンワームが歩いて来た。 「大丈夫です。知り合いです」 「知り合い?!」 「ああ、手紙を持ってますね」 拾い上げて小さく丸めた紙を取り、広げてみると 几帳面なアルファベットで英文が書いてあった。 「……」 「何だ?」 「盗聴されてるみたいですね」 「え?」 「いや、ワタリに、ですけど」 私は紙をくしゃりと丸めてジーンズのポケットに突っ込んだ。 「……で?」 「いや……その。あの、覚悟とやらが私に出来るまで待って下さい」 「うん?」 「……あなたが私の伴侶となるなら。 私は全力で、あなたを守らなければならない」 「……」 「例えあなたが罪を犯しても、私が講じる事が出来る全ての手段を使って あなたを救わなければならない」 「……」 「みたいな事が書いてありましてね」 「……」 夜神は呆気にとられた表情をした。 それはそうだ。 先程まで、死と、不本意なセックスを覚悟していたのだから。 だがさすが夜神、すぐに状況を読んで思考を立て直したらしい。 「と言う事は、僕はおまえに抱いて下さいとお願いした方が良さそうだな?」 ニヤリと笑いながら言う、その表情は、まるで昔に戻ったようだった。
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