LOVE ME TENDER 6
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どんっ!


恐らくガラスは割れるだろうと思ったが、夜神が上手く窓枠をすり抜けてくれたお陰で
私達はスムーズにベッドルームに転がり込む事が出来た。


はぁ、はぁ、と、夜神が絨毯に手を突いて息を弾ませている。
冷静そうに見えたが、やはりテンパっていたようだ。

はだけたバスローブから滑らかな肩や乳首が見え、
裾も乱れている。


「大丈夫ですか?夜神くん」

「……おまえ……」

「何でしょう」


夜神は答えず、また息を整えた後「みず」と小さく呟いて
冷蔵庫を開けた。
これ見よがしにごくごくと半分ほど飲み干した後、バスローブの袖で口を拭う。


「……は〜……」

「だから何ですか」

「本当におまえ、生きてるんだな……と思って」

「見ての通りです」

「……夢じゃないかと、思ってたんだ」

「私が生きている事が?」

「さっきまでの状況全てが」

「……」


夢を見ているような、といった最初の印象を思い出す。
今ははっきりと目が覚めたようで何よりだ。


「僕が手を離して、落ちれば目が覚めるんじゃないかって。
 『ああ、やっぱりLは死んでた』って安心出来るんじゃないかって」

「危なかったですね」

「全くね」


私と普通に受け答えをする夜神は、もう動揺を静めていた。
全てを諦め、受け容れた表情……。

夜神ほど聡明ならば。
自らの手詰まりを、早い段階で読んでしまったのだろう。
あるいは、もし私が生きていれば、全てが終わりだと
何度もシミュレーションしてみたのかも知れない。

それにこの様子なら、先程の約束を忘れた振りをしたり、
言い逃れをしたりはしないように見えた。


「夜神くん。……ベッドへ」


夜神は私の方を見ないまま、ミネラルウォーターのペットボトルを
冷蔵庫に戻す。
それから無言で素直にベッドに向かった。

座った所へ私が向かうと後ずさるので、ベッドにダイブするようにして
押し倒す。


「……全く、おまえも酔狂だな」

「そうですね。でも、あなたも人の事は言えない」

「は?何で」

「男女共にお盛んですね、という事です」

「おまえ。しばらく見ない内に頭が悪くなったんだな」


相変わらずの減らず口を、塞ぐように口を押しつけると
驚いたように舌が押し返して来た。
それを更に舌で絡め取ると、今度は口内の奥へ逃げていく。
逃げ場なんかないのに。


「んん!……んんん、ん」


何も言わせず手でバスローブの裾を割り、太股を撫でると
小さく震え始めた。


「んっ、離せ、って。おまえ……本気、なんだな?」

「今更ですよ」

「いや、心の準備が」

「カマトトぶらないで下さい」


構わず下着を脱がせると、夜神は諦めたように力を抜く。


「ローション貸して下さい」

「え、何の?」

「潤滑剤としてのローションです。ゼリーでも良いですが」

「な、ないよ、そんな物」

「そんな訳ないでしょう。そう言う仕方ない、あなたが濡らして下さい」


ジーンズと下着を下ろし、半分勃起した性器を夜神の口元に近づけると
見た事のない表情で唇を食いしばった。


「や、夜神くん……」


笑ってしまいそうになった。
手錠で繋がれていた当時、場を和ませようとする夜神の下らないジョークに、
お愛想で微笑んで見せた事はあるが、本気で笑わされそうになったのは初めてだ。


「その、濡らさなくても入れますよ?濡らさないと辛いのはあなたですよね?」

「……嫌だ。絶対に」

「でも」

「ヤりたかったらヤれば良いだろう!約束だからな!
 だが、僕に協力を求めるな!」

「……」


私は雷に打たれたように、止まってしまった。
それから、自分の指を濡らして恐る恐る夜神のアナルに指を入れてみる。
そこは固く閉じ、外から何かを受け入れた経験がないようだった。


「あの、ですね。まさかとは思いますが……後ろ、した事ないんですか?」

「……ない」

「ええっと……」


まあ、男同士ならアナルセックスが全てという訳ではないだろうが。


「さ、さっきまで魅上は、何を?」

「何って。足裏マッサージを。リフレクソロジーの資格も持っているらしい」

「……」

「ていうか何。魅上を知っているのか?
 もしかして盗聴でもしてたのか?ずっと?」

「その点は謝ります申し訳ありません」


早口で言いながらも私は混乱していた。
夜神が処女だという事実と、自分の推測が全く外れていた事に。

夜神が魅上と肉体関係がない……となると。
私の独り相撲……という事に。


「竜崎」

「はい……」

「この際だから言っておくけれど、僕は、その……
 女性も含めて、婚前交渉は、しない主義……だったんだ」

「え。高田さんやミサさんは?」

「してないよ」

「それは……可哀想ですね」

「同じベッドに寝て頭を撫でてやれば、満足そうにしてるよ。
 女ってそんなもんだろ?」

「いや、どうでしょう……」


この男は……この年で、とんだチェリーボーイだ。
これは一体……。






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