LOVE ME TENDER 5
LOVE ME TENDER 5








珍しく高層階でも全開する窓があったのは、運が良かった。
私はじわりとロープを緩め、真下の部屋の窓の前に立つ。
窓枠にしがみついて中を覗き込むと、夜神がいた。

懐かしい……生きて、動く夜神。
バスロープを着ている。
男の色香が、匂い立つようだ。


「夜神くん」


小さく呟いてこんこん、と軽く窓を叩くと、すぐに夜神はこちらに顔を向けた。


何故か仰天していない、少し不思議な物を見つけた、という程度の
驚きの表情を見せながら窓に近付いてくる。

強化ガラスの内と外で、見つめ合う。

十秒近く無言で見つめ合った後、夜神は夢を見てるかのような表情で
窓を開けてくれた。


「竜崎……の幽霊?」


失礼な。
いきなりそれか。


「いいえ。生きてます。本物です」

「でも」

「死ななかったんですよ、あの時。
 実はレムさんにあらかじめ私の殺害計画を聞き、備えました」


レムの名前を出した事で我に返ったのだろう、夜神は、顔を引き締めて
キラに戻った。


「そうだったのか。なら、今更何故?」

「まあ、とにかく入れて下さい」


……夜神ほどの男が、深く考えての事とは思えない。
後で思えばそれほど動揺していたのだろう。


「嫌だね」


一言言うなり、思い切りよく私を突き飛ばした。

予想通り。

おまえは、私が生きていると知ればきっと即殺そうとするだろうと
思っていた。

私は私を突き飛ばした腕を掴む。


「えっ?」

「死なば諸共、ですよ。夜神くん」


そして突き飛ばされた勢いだけでなく、自らホテルの壁を蹴る。
私達は、地上数十メートルの空中に放り出された。




「ひっ!」


だがすぐに夜神は、私がワイヤーで吊されている事に気付いたようだ。
慌てて私の胴にしがみつく。


「おまえ……」

「命綱なしに外壁をよじ登ったり降りたりする訳ないじゃないですか」

「ああ、そう……そう、だな」

「ところで今の状況、あなたと私とどちらが不利か分かりますか?」

「……」


夜神は不快の為か肉体の苦しさの為か少し眉を顰めた後、低い声で答えた。


「……それは50:50じゃないか?
 確かに僕はおまえにしがみついて何とか生きてるけど、
 おまえだって僕を振り払おうとすれば危ない。
 このワイヤー、そんなに太くないよな」

「そうですね。でも時間経過と共にあなたが不利になっていきますよね?
 現にだいぶ疲れているんじゃないですか?」

「ああ……腕がもうヤバい」


普通の人間はそんなに強くない。
アクション映画のように、長時間ぶら下がったり、腕だけで体重を支えながら
格闘するのは不可能だ。


「どうします?」


尋ねると、夜神はよせば良いのに首を伸ばして足下を見た。
何十メートル、落ちれば万に一つも生き残れる可能性はない。

高所恐怖症ではないが、自然と身が竦む地上までの距離だ。
彼でなければ気を失って落ちていても不思議ではない。
ずる、と服の脇を掴んでいた手が滑り、夜神の顔が私の股間に押しつけられた。


「どう、するって……」

「このまま落ちますか?それとも、私に助けてくれと頼みますか?」

「……助けて、くれ」

「条件は?」

「は?」

「助ける事に代償は?私にどんなメリットがありますか?」

「……」


夜神は、ぞくぞくする程険しい顔で私を見上げた。


「それとも、キラとして逮捕され、死刑になるくらいなら
 今死んで置いた方がマシですか?」

「……分かった」

「はい」

「何でも、要求を聞く」


夜神が苦しげに、私のジーンズの太股あたりに手を巻き付けた。


「言ってくれ」

「そうですね……では、させて貰いましょうか」

「何を?」

「セックス」

「は?」


ずる、とまた夜神の左手が滑り、慌てて足を振るので余計にバランスが崩れる。


「冗談?」

「いいえ。魅上としているようなイイ事を、私ともして下さいと言っています」

「何か誤解があるようだが……分かった。何でもさせるから。
 だから」

「分かりました」


私は背を逸らし、弾みを付ける。
夜神も私の意図に気付いたのか、固くしがみついて錘に徹した。






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