LOVE ME TENDER 4
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「ワタリ。夜神と魅上がベッドルームに移動した。
 ラジコンワームの用意を頼む」

「L……」

「あなたも私が夜神に関心を持つことが喜ばしいと言ったな?」

「言いましたが、のぞき趣味は如何な物かと思います」

「ワタリ!」

「急にどうしたのですか?」

「……」


分からない……。
ソファで事に及んでいる間は何も思わなかったが、
ベッドで、となると何故か居ても立っても居られない気持ちになった。

ベッドは、夜神と私の聖域だったからかも知れない。



夜神と手錠で繋がれて生活していたあの頃。

夜神と私は、ダブルベッドで寝ていた。
勿論私も、そういうベッドは基本的に愛し合う者達が寝る物だと
理解していたが、手錠を外す訳には行かない以上、やむを得ない。


『おやすみ』

『はい、おやすみなさい』

『……』

『夜神くん』

『……何』

『変な気分になりませんか?』

『何が』

『いえ。ただ、普通こういったベッドの上では……ねぇ?』


暗闇の中で、こちらに顔を向けた夜神の目がきらりと光ったのを覚えている。
眉を顰めているのが、微かに見て取れた。


『気にならないね』


やがてぶっきらぼうに言った後、少し含み笑いをして


『おまえこそ、僕とセックスでもしたくなった?』

『なわけないじゃないですか。
 ただ自分がダブルベッドで誰かと寝ている、という状況が面白いです。
 その相手が他ならぬあなたであるという事も』

『際どい事言うね』


“まるで僕がキラみたいじゃないか”
そんな言葉を隠して。

彼との会話は、一言一句正確に覚えている。
あの、人生で恐らく最もスリリングで、最も高揚した三ヶ月間。


『どちらかがベッドに登った時点で、事件の話はもうしないって決めただろ』

『そうでした』


そう……。
二十四時間共に過ごすストレスを和らげる為の策として、
最初に私達はそんな取り決めをした。

だから私達は、ベッドのマットレスの上に座り込んで
キラ事件とは関係の無い、過去の事件の話や若者らしい馬鹿話を沢山した。

今となっては、何と不可思議な時間。


『でも、このまま何年も事件が進展せず、共寝が続いたら
 その内セックスくらいしてしまうかも知れませんね』

『その内?今じゃなく?』

『……夜神くんこそ、際どい』

『おまえが言い出した冗談だろ』




結局夜神との生活は三ヶ月で終止符を打ち、
勿論肉体関係を持つなどという事も無かった。

その同じベッドではないが、ホテルのベッドの上で夜神が……
女性ならまだしも、男性と関係を持つという事がやはり納得出来ない。


「……のぞき趣味とか、そんな物ではない。
 夜神の性生活に個人的興味はない」

「そうですか。まあ、それならばよろしいのです。
 ……手が付くと早い物ですしね」

「……」


手が、付く、と……夜神が、魅上によって開発されて行くと言うのか……。
あの、バカみたいにプライドの高い夜神の身体が。


そうこうする内に、ドアの開閉音がして夜神か魅上、どちらかが戻って来た。
いや、この足音は魅上だな。

夜神は疲れて眠っているのか。
それともベッドルームに付属したシャワールームで湯を浴びているのか。


「ワタリ。終わったようだ」

「そうですか」

「……今から突撃する」

「L」


突撃する理由なら、十でも二十でも拵えられる。
夜神を捕縛するタイミングは、私の中では四六時中と言って良かった。


「……メロが危ないんだ。
 高田との対談は筆談で証拠が取れないが、魅上との会話は油断している。
 今まで集めた録音だけでも、何とか夜神がキラだと立件出来るかも知れない」

「録音記録では難しいでしょう。決定的な事は口にしていませんし」


ワタリは今まで私が起こした夜神と魅上の会話のプリントアウトに
目を通しながら答えた。


「L。素直に言ったらどうですか?
 今、夜神くんに会いたいと」

「……」


私が無言で立ち上がると、慌てたように紙束をデスクの置く。


「待って下さい、L。分かりました。ワームを貸します」


そう言ってケースから小さい鼠ほどのマシンを取り出した。
ワタリの発明で、車輪を使わず垂直方向にも移動できる
小型の多用途マシンだ。


「まず、カメラとこのカセットを装着して……」


通気口の蓋を外し、中に置くと生きているかのように走り始めた。
そしてワタリのモニタに、ワームの前方の風景が映し出される。


「運が良いですね、通気口に仕切りはありません」


真下の、夜神達がいる部屋の通気口カバーの編み目が
間もなく映し出される。
中は明るく、魅上の姿が見えた。


「では、麻酔ガスを」


シュー、という微かな音に気付いたのか、魅上がカメラの方に顔を向けたが
恐らくワームを確認する前に意識を失ったのだろう。
膝を突き、そのまま静かに倒れた。


「ありがとうございます。これで邪魔者が消えました」

「L。言っておきますが、無茶をしないように」

「大丈夫です」


私はワイヤーロープを自分のベルトに装着し、部屋の窓枠にも固定した。


「行ってきます」

「L、気をつけて!」


非常脱出口のマークが付いた窓を開け、外に出た私は
ワタリに小さく手を振って、高層ホテルの外壁を伝い始めた。






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