Living dead 3
Living dead 3








それにしても。

私は小さい頃から、表情のない子、顔色の変わらない子、と言われて来ている。
Lが死んだとロジャーに聞かされた時、頬が冷えていくのが感じられて
自分でも青褪める、という事があるのだなとぼんやり思った。

そんな私が今、恐らく生まれて初めて紅潮している。
耳が、熱い。頬に血が上るのが感じられる。


「おい、やめろ」


私が固まったまま黙っていると、夜神がメロの手を払いのけた。


「何のつもりだ?お前は何なんだ?」

「お前こそ何ださっきから。自分がニアだと言ったり、
 ニアをかばったり」

「僕はニアの……世話係だ。ニアを危険に曝す訳には行かない」


メロではないが、どういうつもりだ夜神。
おまえが私をかばうなんて。


「とにかく、まず話を聞かせてくれませんか?」


そこへ、傍観していたLが割って入ってきた。
何故かメロも素直に離れ、話を聞く体勢なのか空中で足を組む。
夜神も、漸く私から離れてくれた。


「まず。あなたはメロで間違いありませんか?」

「名前になんか意味はない。俺は俺だ」

「……間違いなさそうですね」


最初驚いていたLも、今は平然としている。
さすが死神に殺されただけの事はある。
そして、


「これは、デスノートですか?」


私が、テーブルの上に投げ置いた白いノートを指差す。


「さあな。ただ、人の名前を書けば、俺の寿命が延びるそうだ」

「今現在の所有権は?」

「その女」

「メロとしての……というか、人間としての記憶は、どの程度ありますか?」

「こうやって英語は話せるし英語だという事も理解している。
 全生活史健忘、と考えてくれて良い」

「了解しました。では……何故、ここに来たのですか?」


そう。全てを忘れているのなら、Lの事も私の事も忘れている筈。
偶然とも考えがたいし、何より私の名を知っていた。


「動機としては、退屈だったから。
 ここを選んだ理由は、おまえたちと縁があったと、特にニアってのは
 俺のライバルだったと死神に聞いたから」


生前、越えられなかった私を、どうにかしようとしているのだろうか。
それとも。

これは、心霊現象か?
いや「寿命」と言ったな、メロは死神になってしまったのか?

死神は生きているのか?

退屈?

デスノート、に名前を書くのか?

そうやって寿命を延ばして行く……。

それが夜神だったら許せないが、メロだったら良いというのか、

もう生きていないからな、この世ならぬ超常現象……、


……検証しようもない事案に関しては、まず仮定に仮定を積み重ねて
推定らしきものをひねり出すしかない。

だが今回は、論理だのフェルミ推定だのでどうにかなる問題ではない。

「メロが死神になった」

その簡単な仮定すら受け容れられず、そこから先に思考が進まない。
一体、どうしたのだろう、私とした事が。

時間が、欲しい。


「ニア。昨日は寝不足だろ?少し休もう」


……丁度良いタイミングで、こんな事を言うのだ、夜神は。


「おい、どこへ行くんだ」

「ニアを少し休ませる。L、メロを頼む」


私は、背中に痛いほどの視線を感じながら
夜神に手を引かれて寝室に向かった。





ワンピースの背中のリボンだけ外し、ベッドに横になった。
夜神も私の横で肘を突いて横たわり、私の肩をぽんぽんと叩く。


「……夜神。もう、行っていいですよ」

「いや、ここにいるよ」

「どうしてですか?気になるでしょう?」

「おまえこそ、僕が行ったら気になるだろう?
 僕がLの隙を見てデスノートを手に入れないか」

「ええ……でも、Lなら隙など見せないでしょう」

「そうだね。けれど、今は何も考えず、10分でも眠ると良い……」


夜神の低い囁き声は、既に私に対して催眠効果を持つ。
思考が進まなかったのは、本当に、単純に、眠かっただけなのか……。

そんな事を思いながら、私は結局そのまま眠りに落ちた。




目が冷めた時、一瞬妙な夢を見たと思ったが、自分の格好が
夢ではあり得ないと教えてくれる。


「夜神」

「……ああ、ごめん。僕も、うとうとしていた」

「当たり前です。あなたの方が寝不足だったんでしょう?」

「……」

「30分も寝てしまいました。行きましょう」


夜神を促して背中のリボンを結んで貰い、二人でリビングに戻る。
Lとメロは、ソファに座って差し向かいで話している所だった。
Lはソファの上に足を上げ、メロはふんぞり返っている。


「起きました」

「よぅ、お楽しみだったか?」

「……」

「あんたもそんな格好で、意外と好きなんだな。30分で何発出来た?」


メロだ……。
どう言えば相手を効果的に怒らせる事が出来るか、いつも計算している。
私は常に言い返さなかったので、逆に負け惜しみのようになって
いつも悔しがっていた。

日本の捜査班を……夜神をハメた時の連携と言い、やはり彼とは
本来は気が合うのではないかという気がする。


「ニア。夜神くん。今、大体の話を聞いた所です」


Lの声で我に返り、思わず夜神を見そうになって、寸での所で押さえる。

Lは、今まで夜神を「月くん」と呼んでいた。
それが今突然、「夜神くん」……。


「メロがシドウという死神に聞いた所によると、昔ある死神が
 デスノートを地上に落とした。
 それを『ライト』という人間が拾って、人間を減らし始めたそうです」


と言う事は、夜神がキラであった事は、メロには伏せてあるのか……。
確かに、もし日本語が読めたとしても「夜神」も「月」も「ライト」には
繋がらないな。
それにもしメロが夜神がキラだと知ったら、取り敢えず殺してしまうかも知れない。


「それを止めようとした『L』は『ライト』に操られたレムという死神に殺されかけ、
 『L』の後継者の一人であったニアが『L』後を継ぎ、もう一人の後継者であった
 メロも別方向から『ライト』を追い始めた」

「ああ。シドウにそう聞いたが、Lは自分の事なのにどこか他人事だな」

「はあ。自分が負けた事はあまり思い出したくないです。
 そして、メロは残念ながら『ライト』を追う過程でデスノートで殺され、
 最終的にニアが『ライト』を追い詰めた……」

「あの要領の悪い死神の要領の悪い話を何とか纏めると、
 そんなところだ。そしてそれが俺の生前の認識でもある」


キラ事件の概要は聞いている……だがそれも大雑把なアウトラインだけだし
死神が知らない事……ワイミーズハウスでの私との関係なども
当然知らないのだろう。

外見と性格だけが生前のメロと共通するこの人外。
「メロ」と認めて良いのかどうかさえ。


「その『ライト』はどうなったか聞きましたか?」

「『ライト』に憑いてた死神が、名前を書いたと聞いた。
 それが、人間界にデスノートを落とした死神の責任らしい」


メロは、Lに対する感情も、『ライト』に対する感情も現さない。
まあ、我々のスタンスが分からない以上それが賢明というものだろう。
その割りにお喋りなのは、死神なら怖い物なしだと、負ける筈がないと
思っているのだろうか?


「メロ。私の事は、ただライバルと?」

「ああ、その辺りは又聞きだし、シドウの説明では良くわからなかった」

「ライバル、というのは、私的には不正確だと思います」

「……あぁ?」

「あなたは私に一度として勝った事がない。
 それが分かっているから、自らLの後継者から外れ、マフィアに身を落としたのです」

「……」

「あなたはキラ……その『ライト』の通称ですが、彼顔負けの、
 人道に外れたデスノートの使い方をしました。
 ……まあそれでも、最後は命を賭して私の計画を助けてくれたので
 感謝はしていますが」


メロは、凶悪な顔をして私を睨んでいた。
どうせ死んだんだから、目つきも、その顔の大きな傷も直せばいいのに、と思う。


「それは、本当か」


Lや夜神に向かって尋ねた。


「ああ、本当の事だ」

「そうか……」


夜神の返事に少し考えた後、メロはいきなりゲラゲラと笑い始めた。


「なるほど、それで俺はスカウトされた訳だ」

「スカウト?」

「最近死神がいくらか減ったらしく、死んだ人間からピックアップして
 死神にしたらしいんだ。
 で、そのシドウが生きてた時の俺を見て、推薦してくれたそうだ」


それから急に笑い顔を消し、ぎゅっと一気に私との距離を詰め
髪を引っ張って首を掴む。


「……痛いです」

「だから、俺はデスノートの所有者の名前を書かなきゃいけないんだよ。
 何なら今すぐお前を殺してもいいんだぜ?」








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