Living dead 2 そう言われると緊張が走るが、表紙が白いせいか 以前デスノートを見た時のような禍々しい感じはない。 いや、沢山の命を奪ったノートだという先入観がないせいか。 「デスノートだとすれば、拾うと所有権を得てしまう。 死神に憑かれるぞ」 「……と言う事は、見えないだけでこの場に死神がいると?」 「恐らく。『拾う』の定義がどの辺りか分からないが 触れるのも危ない」 ……本当にデスノートだとすれば、夜神に触られる事こそ危ないだろう。 夜神に所有権を取られる前に……、 いや、所有権がなくても使うのは使えるのだったか……。 「……死神界があるのだから、天界もある可能性もあります。 案外、死神のノートではなく、天使のノートかも知れませんよ?」 「何。人の名前を書いたらそいつが結婚でもするのか?」 Lも夜神も、虚勢を張って平静な振りをしているが、その内容を聞くと やはり狼狽して結論を先延ばしにしたがっているように思える。 それは私もだが。 だが、いつまでもこうしても居られない。 「こうしましょう。……まず誰かが持ってみましょう。 所有権を捨てれば、記憶も消えるんですよね?」 「ああ」 「では、所有権を持った者がノートを完全に破棄する手はずを整えて 手放せば、記憶ごとノートの存在はなかった事になる」 我ながら嫌な役回りだが、Lや夜神に言わせる訳にも行かない。 「そうなるね」 「となると、建物内の破棄では不完全になる可能性がありますから その役目は外出する夜神か私という事になる。 夜神に渡すのはもっての他なので、必然的に」 私が言う前に、Lが私の方を向いて結論を言った。 「あなたしか、いませんね」 「はい」 「お前は本当にそれでいいのか?」 「愚問です。どうせ記憶も失うのですから問題ありません」 恐れていると、思われるのも癪なのでさっさとしゃがんで さっさとノートを手に取る。 持っても本当に、普通のノートだった。 だがその時。 バサバサッと天井近くで大きな羽音がした。 目の前に、ひらひらと……先が焦げた白い羽根が舞い落ちて来る。 思わず手を伸ばすと、その先に 天使……。 そこに現れたのは、金色の髪をした、天使だった。 と思ったが、 「メロ!」 思わず叫んでしまう。 焼け焦げた痛々しい白い羽根、黒く尖った爪、 何よりメロは既に死んでいるという客観的事実があるにも関わらず そこに居たのは、黒いレザーを身に纏って銀色の十字架をつけ、 顔も半面焼けた、生前となんら変わらぬメロだった。 「メロ?」 Lだけでなく、夜神までもが無断でノートに触れるが、 それを咎めるのも忘れて思わず見入ってしまう。 Lも流石に息を呑み、夜神も目を見開いていた。 メロらしき天使?死神?は、ニヤニヤしながら私達の顔を 順番に見ていたが、やがて口を開く。 「ニアってのはどいつだ?」 その、懐かしい声。 この世ならぬ声という感じではなく、明らかに同じ室内にいて、 同じ反響をする人の声だった。 しかし、私の事が分からないという事は、これはメロの姿をしているけれど メロではない……? どう答えようか、と逡巡する間に、何故か夜神が 「僕だ」 「……へぇ。ニアって東洋人だったんだ?名前が漢字だな」 夜神の頭の上辺りを見ながら言う。 死神は、人の上にその者の本名と寿命が見えると言う話だから やはり、こいつは死神、か……。 しかし何故メロの姿を? 「ああ。久しぶりだな。僕に、何の用だ?」 夜神が、Lのおやつテーブルからブロックチョコを持ってきて差し出す。 メロは一瞬戸惑ったような顔を見せたが、結局受け取った。 「……おまえ、ニアじゃないな?」 パリッと一口チョコレートを噛んで、メロが目を細める。 夜神も、口元に笑いを貼り付けたまま、目つきを鋭くした。 「ニアなら、俺にこんなに愛想よくはしない筈だ。 それにおまえの俺を見る目つきは、どう見ても初めて会う男を値踏みする目だった」 まあ、それもそうだ。 メロは昔から、他人の表情に表れる機微を読むのは上手かった。 「てことはおまえか?」 夜神を無視して、今度は何故かLに向かって言う。 分かってやっているならある意味メロらしい嫌がらせだとも思うが やはりそこまではしないだろう。 「私は、Lです」 「ああ、そりゃLって書いてあるが、」 そこで何故か言葉を切って、少し眩しそうな顔になる。 それにしてもLは、本名にLが入っているのか。 「Lって……L、か?」 「はい。覚えてるんですか?」 「いや……名前は知っているんだが、あんたの顔は覚えてない」 「でしょうね。会った事ありませんし」 「はぁ?!」 Lの名前に反応した……やはり、メロなのか? 「てことはあの死神が嘘を吐いていなければ、消去法でおまえか」 メロは、座り込んだ私の目の前に、その顔を近づけてきた。 今日はよく顔を近づけられる日だ。 「意外だな。俺のライバルだったって言うから、絶対年上の男だと思ったのに こんなに若い女だったとは」 いや、ちょっと! そう言えば、私は今言い訳のしょうもない程少女趣味な格好をしていたか。 「でも、正直あんたが一番見覚えがあるような気もしてたんだ」 「……それは、そうでしょうね」 「残念だ。もうちょい色気のあるタイプだったら、あんたとは仲良く 出来たかも知れないのにな」 「メロ……」 「それとも、今からでも仲良くしようか?あんたヴァージン?」 頬に手を当てられる。 メロに触られるのは、子どもの頃の喧嘩以来だ。 氷のように冷たい、という訳ではないが、やはり血が通っている感じはしない。 木彫のような肌触りと温度だった。
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