ラプラスの悪魔 5
ラプラスの悪魔 5








朝起きると、Lは既にコーヒーを飲んでいた。


「おはよう」

「はい」

「……」


ああ。
昨夜のあの言葉は、本気だったのか。


「夜神くん。誕生日おめでとうございます。
 昨日言ったとおりですので、今日一日お手柔らかにお願いします」

「ああ……」


朝になってみれば、Lが「はい分かりました」と答えるだけのゲームなんて下らない。
それに僕には何のメリットもない。
捜査本部では「裸になって踊れ」とか言っても言う僕の方がおかしいし、
二人きりの時は、「はい分かりました」と言うだけで内容は無視されるのだから。


「まあ、あまり気にしなくてもいいよ」

「はい分かりました」

「……」


何だか僕の方が馬鹿にされているような気分になった。




だが、捜査本部でのやり取りは、意外にもなかなか面白かった。


「竜崎、ちょっとそれ取って」

「はい分かりました」

「竜崎」

「はい」

「そのファイル、取ってくれって」

「はい分かりました」


言いながら、Lは意地になっているのか、全く動こうとしない。
周りの空気が微妙になってきた頃、松田さんが助け船を出す。


「月くん、はい」

「あ、ありがとうございます」

「竜崎に言っても無駄だよ。
 竜崎も、取る気がないならそう言ってよ〜」

「はぁ、まあ。月くん、察して下さいね?」

「何故僕が」


そこで僕が笑い出せば、周囲も何かのゲームだと分かるのだろうが
真顔で答えたのは、我ながら意地が悪いと思う。




「竜崎、そのケーキ、貰って良い?」

「……はい。分かりました」


午後の休憩で。
嫌そうな顔をしながら、今度はさすがにケーキ皿をこちらに
押して寄越した。
だが、僕が引き寄せようとすると、皿の端を摘み直す。


「離せよ」

「はい」

「離せって」

「はい」


言いながらも指の力は全く緩まず、男二人で苺ショートの乗ったケーキ皿を
引っ張り合う珍妙な光景になってしまった。


「……冗談だよ。ケーキ食べて良いよ」

「はい。分かりました」


今度は心底からの「はい分かりました」なのだろう、
Lは、嬉しそうにケーキを抱え込んだ。






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