ラプラスの悪魔 4
ラプラスの悪魔 4








僕には珍しい事だが、夜になってもどこか苛立ちが押さえられなかった。
一度や二度なら何という事もなく受け流せるが、
毎日一日中監視され、無礼な事を言われ続けると不満は蓄積する。
それがそろそろ、臨界点に達しかけているのかも知れない。


「そう言えば今日の昼間聞いたけど、時々ミサが会いに来ているのを
 おまえが独断でブロックしているらしいな」

「松田ですか……」

「僕は全く聞いてなかったんだが、どういう訳だ?」

「言ったでしょう、私は弥が第二のキラだと思っている。
 彼女とあなたを接触させる訳には行かないのは、分かるでしょう?」

「おまえの考え方は分かるが、何故それを、僕にも言わず
 勝手に決めるのかって事だ!」


ミサの事はきっかけに過ぎない。
僕にキラの可能性があるという前提なら、Lの判断は間違っていない。
だが、噛み付かずにはいられなかった。
きっと僕はどこかで、ガス抜きしたいと思っているのだろう。


「会いたいんですか?」

「そんなんじゃないけど、聞いていたら僕から、会いに来ても無駄足だから
 来なくて良いと、謝りがてら言える」

「ですから、いかなる接触も禁じます」

「おまえ!今の状態が、僕の譲歩だという事を忘れてるな?」

「……」


Lが珍しく、言葉に詰まった。
僕も、これを言うのは初めてだ。
正当な論理だからこそ、そして僕がキラでないからこそ、言うべきではない。
と思ってきた。

けれど。


「おまえがどう思おうが、僕がキラだという証拠は一切無い。
 それどころか、火口が逮捕されて完全に容疑から外れている」

「……キラの能力は、移動します。
 過去の容疑までは晴れていません」

「だが証明も出来ない。
 僕が是が非でも外に出ると言えば、おまえにそれを止める術は無い」

「でもあなたはキラです」

「……っ」


思わず拳を握ったが、今日は我慢出来た。
まるで子どもを相手にしているようだ、と思ったからだ。


「……明日は、出かける」

「無理です」

「おまえが良くて僕が駄目っていうのもおかしな話だろ。
 僕たちは今対等な関係の筈だ」

「それはそうですが」

「勿論、捜査本部の誰かを監視に付けて貰っても構わない。
 いやむしろ、僕がキラらしい動きをしないように見張らせてくれ」

「……でも、外に出るのは。屋上なら、許可します」

「屋上なんか、おまえの許可なくてもいつでも行く!
 とにかく、明日は出かけるから」


いくら穏やかに話そうとしても。
Lの言葉尻一つに、感情が逆撫でされる。


「どうしてそんな事を急に言い出したんですか?
 今まで何ヶ月も何でもない顔をして耐えてきたのに」

「一つは、おまえが出かけた事。
 自分だけ外の空気を吸おうなんて許せない」

「ですから屋上に、」

「もう一つは」


竜崎も知っているだろうが……まあ、そんな事で意思が動くタイプでもないか。


「明日は、僕の誕生日なんだ」

「ああ……そうでした」

「クリスマスも正月も休みなし、年に一度の誕生日くらい良いだろ?」

「私は、誕生日も休みませんけどね」


ああそうか、Lにも、誕生日はあるのか、当たり前か。
などとどうでも良い事を思いながら。


「その代わりに好きな時に弛緩してるじゃないか」

「誕生日プレゼントが欲しかったら言って下さい。
 このビルに持ち込める物なら、何でも用意します」

「いらない。僕が欲しいのは、一時の自由だけだ」

「夜神くん、困らせないで下さい……」


意外にも、Lは本当に困っているようだった。
こう見えても西洋人だから、日本人よりも誕生日に思い入れがあるのか。


「外に出る事と外部の人間に会う事以外でしたら、何でも聞きますから」

「いらない……あ」

「何ですか?」


僕は、昨日の会話を思い出していた。


「それで、僕がセックスを求めるとでも?」

「ああ、昨日の話ですか。そういう展開もアリでしょうね」

「ナシだから!」


全く……確かに、性欲処理には困らないでもないが、昼間頭を使っているので
夜は結構ぐっすりと寝てしまう。
実際、例えば世界一の美女を呼ぶと言われたとしても、Lのお膳立てだと思えば
それを受け入れる気には全くなれなかった。


「また膠着状態ですか……夜神くんも、頑固ですね」

「どっちがだよ」

「子どもみたいな事を言ってないで、代替案を出して下さい」


本当に、どっちが子どもだ……。


「偶には、『はい分かりました』って言ったらどうだ?」

「はい分かりました。ならばそれを誕生日の代替案にしましょう」

「は?」

「明日、私はあなたから話し掛けられたら、必ず『はい分かりました』と答えます。
 勿論、答えるだけで行動は伴いません。
 外出させてくれと言われたら、『はい』と答えますが、外出はさせません」

「何だそれ……意味ないだろ」

「あなたが言ったんですよ?これ以上は譲歩できません」


本当に、許せない程子どもだ。
だがあまりにも馬鹿馬鹿しくて、これ以上外に出してくれと
粘る気もなくなった。
それに、明日Lを困らせるような事を言ってやろうと考えると少しは気も晴れる。

結局僕が折れた形になり、その日はそのまま寝た。






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