記憶鮮明 6 意識を取り戻した時、竜崎は既にシャワーを浴びてさっぱりしていた。 その間、自分が出したモノにまみれて、尻から竜崎の精液を垂れ流しながら 寝ていたと思うとやるせない。 極めて平静を装いながら僕もバスルームに入り、戻ってくると 既に竜崎がシーツを換えてくれていた。 それから、今日のセックスがとてもよかったと、手放しに褒めて僕を貶める。 まるで、「L」と「キラ」の対話などなかったかのように。 「夜神くんだって、今までにないほど感じてましたよね?」 そう、くしゃくしゃに丸めたシーツに目をやりながら言われると 僕は頬を染めて目を逸らすしかなく。 だが視界の隅で竜崎も、笑いを消して顔を逸らしているのが見えた。 勝ったような気も、負けたような気も、しなかった。 結局僕たちは二人とも堪え性がなく、解放に向かいたがる肉体を 勝負が付くまで待たせる事が出来なかったのだと思う。 お互い譲歩しまくって、早い所で手を打って、 後はただ快楽に流された。 後先考えない、馬鹿な若者のように。 「……有り得ないね」 「……はい」 何が、と言わなくても分かる。 竜崎にとっても、先ほどの事は痛恨だったのだろう。 思わず、話を逸らしてしまうほど。 なかった事にしてしまいたくなるほど。 だが、そんな訳にも行かない。 「……セックスしながらディベートなんかするもんじゃないな」 「私も、こんな無様な交渉は初めてですよ」 竜崎は、先ほどまでの上機嫌が嘘のように、顔を顰めながら 体を丸めて親指を齧っていた。 「……夜神くんが悪いんです」 「はぁ?」 「あなたが煽るから。締め付けるから。 私もうっかりリミッターを外してしまったじゃないですか」 「知るか!」 「それが態とで、体で私を誑し込んだつもりなら半分成功ですよ。 あんなに初心だったのに、本当に大した物です、キラは」 「……」 僕は……ベッドを降りたから、もうキラじゃない、そうとぼけて このまま計画通り竜崎を殺してしまっても良かった。 だが、後一押しで、竜崎を落とせそうな雰囲気が、それを躊躇わせる。 例えば、デスノートに一度でも名前を書かせる事が出来たなら。 竜崎を殺したくない。 自分の手駒にしたい。 そう思う気持ちを、認めてしまうと止められなかった。 しかし、彼は今まで出会った中で、断トツに手強い人物だ。 下手に手を出すのは危険すぎる。 それでも。 ……僕には珍しい事だが、迷いから抜け出せない。 いや。これまでの人生でも、いつも安全策の為に 色々な可能性を手放して来たじゃないか。 僕が確実に生き抜くには……竜崎を殺すしかない。 そんな僕の思考を読んだようなタイミングで、竜崎が声を掛けてきた。 「それで、いつ殺人ノートを取りに行きますか?」 「……」 「取りに行く時は、一緒に行きます」 「……」 キラとして答えるか、冗談として流すか……。 キラとして答えてしまったら、もう引き返せない。 逆に、キラじゃないと言い切ってしまっても。 ここが考えどころだと思ったが、結局腹を決めた。 大丈夫だ、その気になればいつでも殺せる。 今すぐ可能性を消す必要はない。 竜崎が、一度でもデスノートに名前を書けば、こちら側に落ちたも同然。 僕の勝ちだ。 そしてその可能性は低くない。 コイツは、正義よりも自分の好奇心を優先する。 間違いない。 「……構わないけど。名前を書くなら、僕の前でだ。 そして書いたらすぐに返して貰う」 「私が信用できませんか?」 「ああ、出来ないね。 おまえは僕の名前を知っているのに、僕はおまえの名前を知らない。 お互い相手を刺したいんだから、どう考えたって僕が持つのが妥当だろ?」 「まあ、そう言われればそうですかね」 わざと剣呑な物言いをしても、動じた様子を見せない。 竜崎の頭の中が、本当に読めない。 こんなに怖い事は初めてだった。 もしかしたら、僕は生まれて初めて負けるかも知れない賭けをしている。 大丈夫、竜崎が変な動きを見せた途端、一気にミサに疑いが掛かるような 証拠をでっち上げればいいんだ、そうすれば放っておいてもレムが始末してくれる、 じゃなければ、ミサにノートの切れ端を当てて、記憶を戻せば 死神の目の取引をする筈、 そう思うのに、本能が恐怖する。 何かを見落としている気がする。 「明日は久しぶりにデートですね?」 とぼけた顔で口だけの笑顔を作って見せる、世界一の探偵。 油断をしたら、その瞳の中の暗い闇に吸い込まれてしまいそうだと思った。 --続く-- ※こんな優柔不断な月はいやだ。
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