King and Queen 4
King and Queen 4








「ところで、どうしてそんなにじっと僕の目を見るんだ?」

「あなたが私を見るからです」

「……」

「あなたは、性感に乱れる私の顔を観察したいんでしょう?
 私は、そんなあなたを観察しているだけです」


そこまで言えば目を逸らすかと思ったが、夜神は勝ち気にも
まっすぐに私を見つめながら忙しなく、今度は本気になって手を動かし続ける。


「硬い」

「はい」

「もうそろそろ?」

「どうだと思いますか?」

「おまえがどの程度感じているかとか、そんな事
 推理したくなんかないんだけど」

「シュールですね。男二人がじっと見つめ合いながら
 片方がもう片方の陰茎を扱いている。しかもゲイではない。
 ……と、少なくとも一人は思っている」

「それってどっち」

「どちらだと思いますか?」

「僕はゲイではないと明言している。でも真だとは証明していない。
 またおまえの心の中もおまえにしか分からない。証明不能だ」

「実に馬鹿っぽい答えですね。本当はテンパってるんですか?」


そういう自分も、馬鹿らしい会話をしている自覚はある。
生真面目に付き合ってくれるのは、夜神の意地だろう。
この状況で会話を拒否したり、感情を乱して場を放棄するのは、
私に負けたと認める事になるから。

そして逆に、このままイかされてしまえば、私の負け。
頭を冷やそうと埒もない事を話し続けているが、正直他人の手というのは
動きが不随意で刺激的だった。


「論理パズルなんかじゃないですよ。
 どちらもゲイでない事が証明出来ないのなら、私に言いきれるのは
 自分が違う、という事だけです」

「そう?その割に」


夜神が微かに目を細めて、先端を親指の腹で撫でた。


「カウパー氏腺分泌液」


滲み出た透明な液を塗り広げ、ゆっくりと、敢えて正式名称を言う嫌らしさ。

うるさいです。と、切り捨てるのは簡単だ、相手が夜神月でなければ。
だが夜神ならきっと、無言で笑うだろう。
私が許容出来ない、笑顔で。

だから私は、敢えて防御はせずに攻撃に移る。


「さすがですね。こんな事までお上手です」

「僕が上手いんじゃない。おまえが感じ易いんだ」

「ご謙遜を。見直しました月くん。あなたは本当に、セックスパートナーとしても
 適任者かも知れません」

「……」

「考えてみれば、出すだけなら女性より男性の方が後腐れがなくて
 良いですよね?」


夜神が息を呑んだのを見て、内心でほくそ笑む。
私が本気かどうか。
私の心の中は、私にしか分からない。


「月くん。私を飼い主と認めてくれるのなら、犬らしい事をしてみませんか?」


「しろ」でも「して下さい」でもない。
夜神に、命令などしてやらない。
夜神自身に覚らせ、選択させる。

そんな使い方はどうだろう。
選ばせれば期待以上の働きをする、夜神はそんなタイプだという私の予想が
どの程度当たっているか、少し試してみたくなった。
ただそれだけだ。


夜神は私をじっと見つめた。
「冗談です」と言う言葉のを待っているかのように。

私も無言で見つめ返すと、やがて唇を開けた。
威嚇するように食いしばった犬歯を剥きだして見せてから顔を下げる。
夜神なりのジョークなのだろうか。


「犬らしい事と言っても、噛んだら許しませんよ?」

「分かってる」


威勢良く近づいた割に、唇はおそるおそるという様子で私に触れた。

乾いた、柔らかい皮膚が粘液を挟んでミクロの距離で私自身と向かい合う。
今度は本当に、震えていた。
緊張か屈辱か恐怖か、微かなビブラートがもどかしい快感を生み出す。

加えて熱が、潜めても潜めきれない夜神の熱い息が、
まるで血潮を吹き込むかのように私自身の密度を濃くしていった。

blow jobとは良く言った物だ。
ラッパを吹くように銜えられるよりも、息を吹きかけられるだけの方が
感じるのは何故だろう。

しばらく唇の先だけで私に触れていた夜神は、
やがて観念したように舌を突きだした。
ぬるぬると、不器用そうに私の上をなぞる舌先と、震える息。
見下ろすと、苦しそうに顰めた眉と伏せられた長い睫毛。

夜神が。あの夜神月が、私の性器を舐めている。
誰にも膝を屈した事のない、夜神月が。


「月くん」


何と続けるかも考えず、その名を呼んだ。
睨み上げるように私を見た、その目に、理性が飛んだ音がして
軽く目眩を覚える。


「すみません」


咄嗟に右手を動かしていたのは、思考だったのか本能だったのか。
冷静な声が出せた事に安堵しながら、私は自分を扱いていた。
夜神が不穏な気配を察して身を離す前にその前髪を左手で掴み、


ピシャッ


逸らした横顔の目から頬に掛けてを、精液で、汚した。





目の辺りを押さえたままへたり込んでいた夜神は、
やがて無言で立ち上がってバスルームに向かった。


「すみません、月くん」


もう一度大きめの声で言ったが、あの水音では聞こえているか心許ない。


「月くん」


新しいタオルで顔と濡れた前髪を拭いながら出てきた夜神に
もう一度声を掛けると憤怒の表情で窓に向かった。


「……悪いが、少し黙っててくれ」

「はあ。でも私が悪いですし」

「……」

「ちょっと、早かったですよね」

「ああ?そこか?」

「我慢できなかったんです。あなたの顔があまりにセクシーで」

「……」

「最後まで出来なくてすみま」


言い終わる前に夜神が拳を振り上げたのは見えたが、
敢えて避けなかった。
男に、しかも私に顔に掛けられてどうしようもない屈辱と自己嫌悪に
まみれているのは分かるので、その位は甘んじて受け止めてやる。

だが、一回は一回だ。


「犬のくせに、生意気ですよ?……っと」


左足を振り上げる、と見せかけると腕で顔をガードする気配がした。
そのまま両手を床に突いて腰を回転させ、右脚で膝を払うと
夜神は派手に尻餅をつく。
両脚遣いのカポエラ舐めんな。


「おまえ、」


冥い目をしたままの夜神が、ゆるゆると手の埃を払った。
もう一発攻撃をして、戦闘を続ける気はないらしい。


「『手だけでいい』と言っただろう」

「その前に、月くんは私とセックスする覚悟があると言いました」

「ああ。確かに言った。でも、あんなのは許せない」

「どんな『の』なら良いんですか?」

「……知るか!」

「ああ、あなたも気持ちよくなる『の』ですか?」


夜神はまた私を睨み、少しだけ下唇を突きだして立てた親指を全力で下に向けた。
ベッドに潜り込むのを追って私もキルトをめくり上げると、
物凄い勢いで背を向けられた。




--了--





※チェスで最強の駒はクイーンです。一番フレキシブルに活躍して王様を守ります。
 キングは王将と同じ地味な動きです。

※ミサの寿命の件ですが、確か「相応の長さ」と書いてあったので
 レムの命を貰ったからって異常に長生きするという事はないと思います。






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