All Night Long 3
All Night Long 3








「……ありません」


静まりかえった部屋の中。
永夏の押し殺した声が響くと、周囲も大きく息を吐いた。


「信じられんな……」

「どこからだ?中盤までは永夏が優勢でしたよね?」

「空中戦というか」

「何せ、定石にない動きが多すぎて、」


塔矢行洋と戦ってから、何度も夜神と打っているしその度に強くなっている自覚もある。
もう、「本因坊秀策の再来」とは言わせない。
万が一今日の棋譜がネットに出ても、余程勘が鋭くなければ「sai」だとは思われないだろう。


「ありがとうごいました」


そう言って石を崩すと、盤面を見つめていた永夏が一瞬ぴくりと手を上げかけたが、すぐに下ろした。


「永夏さん。ボディガード料は冗談ですよ」

「……は?どういう、」


耳元に口を寄せて、


「実はあなたのお兄さんにもう頂いています」


と言うと、唇を噛んでこちらを睨む。


「……なるほど。そういう事か。
 おまえは父や兄と繋がっていたのか」

「勿論、あなたを守る為に最近こちらからコンタクトを取ったんですけどね」

「そんなに簡単に繋ぎを取れる人達ではないと思うが」

「その辺は職務上の秘密です」


ここで永夏は「降参」と言うように、手を挙げた。


「分かった。取り敢えず何でも言う事を聞く。
 要求は何だ?九份で逆立ちして階段下りるか?」


私たちの棋譜を検討していた中国勢や日本勢にも韓国語のニュアンスは分かったのだろう。
顔を上げてドッと笑う。


「そうですね。取り敢えず、もうすぐ夜も明けますし。
 一先ず解散しましょうか」

「だな」

「飛行機の中で爆睡だよ」

「しかし今回の旅は面白かった!」


さすがに、皆眠そうな顔になっている。


「永夏さんは明日、もう今日ですが、仕事ありませんよね?」

「ああ」

「なら、朝までと言わず、私の気の済むまで付き合って頂きましょうか」

「おい!」


夜神がまた声を張った。


「楊月はどうします?
 私たちに付き合うなら、この部屋にいてもいいですが。
 そうでないのなら、」

「あ。オレの部屋、ベッド一つ空いてるんだ。そこで寝る?」


楊海が気さくに提案する。
さて、どうする?夜神。


「この部屋にいたら、寝かせません」

「……では、楊海さん。今夜お願い出来ますか?
 とてもじゃないけどこの人達に付き合いきれない」

「おう。いいよ」

「あ、ボクも!今から家に帰るのも」

「うん。秀英は細身だから、一緒のベッドで寝られますね」


皆で碁石を片付け、欠伸をしながら出て行く。
最後に夜神も振り向きながら出て行ったが、私はそれを承知で永夏の髪に指を差し込んで顔を近づけた。






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