All Night Long 1 真夜中過ぎにホテルに戻ると、永夏と楊海と秀英が待っていた。 それぞれに憔悴した顔をしていたが、我々の顔を見ると流石に眉間を広げる。 「全て終わりました。もう永夏は安全です。 ありがとうございました」 そう伝えると、楊海が昔のコメディアンのような、「ずっこける」の動きをした。 「って。オイオイ、それだけ?」 「永夏のプライバシーに関する事も含まれますし。 知る事によってあなたがたに今後危険が及ばないとも言い切れません」 「だとしても。楊月の襲撃事件に立ち会って、今日も夕食後に呼び出されて。 それでも何も訊かずに来たのはオレなりにキミに対する信頼があるからなんだけど?」 「……」 何と言われても話すつもりはなかったが、そこで夜神が横から口を出して来た。 「老師。僕が撃たれた時、彼等は助けてくれたし口外もしないでいてくれた。 僕の襲撃事件に関してだけでも、ある程度説明しては?」 永夏を見ると頷いたので仕方が無い。 「……分かりました。 では、楽平、趙石、伊角、和谷には楊海さんから伝えておいて貰えますか?」 「いや、あいつらも呼べば来るだろ。すぐ上の部屋なんだから」 「……」 弱っていると、夜神が顔を背けて「くっくっ」と笑いを噛み殺していたので、仕方なく平然とした顔で頷いた。 部屋に入ってきた楽平達はベッドから出て来たままのような寛いだ格好で眠そうだった。 だが、夜神を見て目が覚めたようだ。 「もう怪我は大丈夫なんですか? っていうか、永夏にそっくり!」 「ええ。諸事情あって敢えて髪型を似せました。 明日には戻しますよ」 「その服も永夏っぽい!」 「はい……永夏さんの服をお借りしています……」 どういう事だと言いたげに楊海を見るので、楊海がこちらに説明を促す。 仕方なく北京語で簡単に説明をする事にした。 「実は、あの時狙われていたのは永夏さんでした。 楊月が偶々永夏さんのスーツをお借りしていたので間違われたのでしょう」 「ええっ!なんで?なんで永夏が命を狙われるの?!」 「そこは永夏さんのプライバシーなので話せませんが、それも今日片付きました。 私と楊月で先方と話し、誤解を解いたのでもう狙われる事はありません」 楊海はそれだけではない事は察したようだが、取り敢えずこれで納得して貰うしか無い。 秀英も「永夏は敵を作りやすいからなぁ」等とわざと惚けてくれた。 伊角と和谷には、夜神が日本語で同じ説明をしている。 「そうなんだ。じゃあ楊月さんももう治りそうだし、永夏も片付いたんだね?」 伊角が明るくまとめる。 他人に深く関わらない余計な詮索をしない、いかにも日本人らしい男だ。 「はい。皆さんにはご心配をお掛けしましたが、そういう事で」 解散を宣言しようとしたら、今まで黙っていた永夏が口を開いた。 「って、中国勢も台湾も明日出国だろ?」 「一応その予定です」 「オレ、まだあんたと打ってないんだけど?」 「はぁ……」 そう言えばそんな事を言っていたな。 だがそんな些細な事を今更? 「そうだな。みんな打とうぜ!楊月さん、この部屋碁盤何面ある?」 「ありません」 「マジで!じゃあ持ってくる。楽平も部屋のん持って来いよ」 ……襲撃事件に比べても些細でもないようだな、彼らにとっては。 和谷がはしゃいで、部屋から走り出て行く。 「しかし!しかし、夜も遅いし皆さんお疲れでしょうし……」 「大丈夫!明日は移動だけだからたっぷり打てるよ。 それに、オレ達もまだ打ち足りないと思ってたんだ。 龍崎さん、よろしくお願いしますよ」 楊海が言い出すと、やはり断りにくい。 夜神を見ると苦笑していたので、仕方なく付き合う事にした。 「ボク、龍崎老師とリベンジマッチがしたいです! 今度は二色碁で」 趙石が上目遣いで私を見ながら言う。 「おい、まだ一局も打ってないオレだろ?」 永夏が趙石を睨む。 「龍崎老師人気だなぁ。 オレたちも中国棋院では打たせて貰ってるから、出来れば韓国か台湾の方と打ちたいけれど……」 伊角が言うので、夜神と打つよう勧めた。 うっかり勝ってしまわないよう耳打ちするのを忘れたが……まあ彼なら上手くやるだろう。
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