Twins 4
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日が暮れ、夜神は秀英とホテル近くの有名な焼き肉屋に入って行った。
永夏はSNSは何もしていないらしいので、秀英に指示し、永夏と焼き肉を食べに来た旨をネット上に投稿させる。
あまりにも単純な罠だし、先方がどの程度焦っているのか分からないので上手く掛かる可能性は高くないが。

永夏と私は少し遅れて斜向かいのカフェに入り、簡単な食事を頼んだ。
パンケーキの生クリームとメイプルシロップを増量してくれるように頼み、小型端末を覗き込む。


『ああ、秀英さん。もう少し声を小さく。
 それといかにも永夏さんと話しているような態度でお願いします』

『すみません。でも楊月さんは永夏みたいに変な事しないからなぁ。
 手が掛からないからいつもと違うかも』


夜神の盗撮グラスからの映像と声をモニターしていると、永夏が覗き込んできた。


「ずっと気になってたんだけど、何だそれ?」

「スパイ道具です。企業秘密ですのであまり見ないで下さい」

「気になるな。あ、秀英?」


夜神の向かいに座っている秀英が、端末のモニタに映っている。
見るなと言っているのに。


『相手が多少読唇術を使える可能性も考えて、僕の事は永夏と呼んで下さい。
 敬語も不要です』

『分かった。じゃあ永夏もね』

『だね。助かる。韓国語は尊敬語の使い所が難しくて』

『通訳なのに?』

『北京語とは尊敬表現を使う対象も違うしね』


「凄いな。あいつらの様子が見られるんだ」

「はあ。別に彼等の雑談を聞いても仕方ないですけど」

「内容も聞こえてるのか?」

「はい」

「何て?何しゃべってる?」

「別に。あなたが手が掛かるとか」


『ああ、でも一番難しいのは日本語だよね』

『謙遜語と尊敬語がはっきり分かれてるからね。武家言葉と公家言葉があるし。
 もう、丁寧語だけマスターしたらそれでいいよ』

『ソウデスネ。ワカリマシタ』


夜神と秀英の言語談義をBGMに、窓の外に目を凝らしていると……。
我々のいる店の直ぐ前で、煙草に火を点けて電柱に凭れ掛かった男がいた。


「あの人、知ってます?」

「いや?」


永夏は知らない人物らしいが……。


「刺客でしょうか」

「まさか。誰かと待ち合わせじゃないか?」

「こんな何もない所で?」

「この店に入って来るとか」

「なら中で待つでしょう」


よく見ると、少し手前の交差点の向こうに、路上駐車している車がある。
日本車だ。
やはり、金寅ではなかったか……。

いずれにせよ、相手は相当切羽詰まっている。
出来れば今日、けりを着けたいと思っている筈だ。


「楊月。店の向かいに怪しい人物がいます。
 用心して出て来て下さい」

「北京語?楊月に電話以外でコンタクト取れるの?」

「静かにして下さい。今が正念場です」


それから甘いパンケーキをゆっくりと平らげ、砂糖を適量入れた珈琲を飲んでいると、夜神達は食事を終えたようだった。


『よし。そろそろ出ようか』

『楊月はこのままホテル?送ろうか?』

『いや。店を出た所で分かれよう』

『え、なんで?』


夜神のレンズに映る、困った猫のような顔。


『僕は囮だからね。一人で行動した方が、敵もこちらを襲撃しやすい』

『でも。危なくない?』

『大丈夫。龍崎が守ってくれる』


……守るつもりはないのだが。
基本的に自分の身は自分で守ってくれなくては困る。

とは言え、そう言われてしまうと彼を殺させる訳には行かないな、などと思ってしまい、
我ながら夜神の策略に嵌まっている、と一人で苦笑いしてしまう。






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