Twins 3
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永夏は決まり悪そうに口を噤み、目を逸らして前を向く。


「……オレは器用じゃないから、イエスマンじゃやっていけない」

「強ければ良いんだと思いますけど」

「勿論そうだが……台湾では、宗教や道徳はどうなってる?」


?急に何を言い出す?
と思ったが、取り敢えず乗ってみる。


「まあ、ほぼ道教と仏教ですが、韓国と同じでこの辺にあまり区別はありません」

「我が国は宗教としてはキリスト教が多いな。
 だが、恐らく他の国に比べて儒教的な思想が日常生活に染み込んでる」

「ああ、なるほど」


長幼の序、か。
体制の古い囲碁界などは、実力以上に年長者が幅を利かせる世界なのだろう。


「出る杭は、打たれましたか」

「打たせない。その為には敵を作っても良いと思ってる」

「具体的には?」

「全ての棋戦で、絶対に手を抜かない。
 年寄りに花を持たせない」

「当たり前と言えば当たり前な気もしますけど」

「この国ではそうでもない。表面上はともかくね。
 女性棋士で初めて優勝したヨンファさんも大概な嫌がらせを受けたと聞く」


なるほど。
しかし、この場合は……。


「では、棋士関係以外で特にあなたの存在を面白くないと思っている人物は?」

「まあ、スポンサーだろうな」


先日の金寅か。


「自分で言うのも何だが、子どもの頃から注目度は高くてね」


永夏は少し遠い目をした。


「目立つのは仕方が無いが、人気が出てしまうと潰されると思ったんだ。
 だから敢えて」

「口の悪いフリをしている、と」

「本音を隠さないと言って欲しいね」

「でもそれが逆に、あなたの人気を揺るぎない物にしてしまった」


一つ、「フリ」ではない大きな溜め息を吐いて。


「こうなったらこうなったで、強気を貫いて碁でそれを裏付けるしかないさ」


永夏はぐっと顔を上げた。
思ったより馬鹿ではないな。


「……その気の強さは、どこから来てるんでしょうね」

「あぁ?」

「お父様譲りでしょうか?」

「……」


永夏は一瞬歩を止めた後、きつい目で私を睨む。


「すみません、ちょっと調べさせて貰いました」

「“ちょっと”……だと?」

「ああ、ちょっとした探偵程度では調べられないでしょうね。国内なら。
 でも国外からなら、色々とあなた方の思いも寄らないツテがあるんですよ」


眉を寄せたまま前を向き、前方にある何かに恨みでもあるかのように歯ぎしりをした永夏は
早足で歩き始めた。


「待って下さい。不愉快な思いをさせたなら謝ります」

「……本当に、棋士よりも裏家業の便利屋に向いてるな。
 関係ない所までほじくり返して他人の弱みを探す」

「そんなつもりはありません。弱みだとも思いません」

「どうかな」


結局永夏は機嫌を損ねたまま帰ってしまった。
少し話を聞けたらと思ったのだがしくじったようだ。




その日から永夏には極秘に近くのホテルに泊まらせ、出来るだけ誰にも居場所を知らせないようにさせた。
いくら影武者がいても、自宅から尾行されたり自宅付近で狙われては手も足も出せない。

そして出来るだけ外出は控えるように言ったが、数日後にはイベントの指導碁をする仕事が入った。
一旦我々のホテルまで来させて、夜神と洋服を取り替えさせる。
それから別々に出て、それぞれこっそりと韓国棋院に入った。


「この間の今日で襲撃されるという事もないと思うが」

「どうでしょう。逆にこちらが油断していると見て畳み掛けて来るかも知れませんよ?」


面倒くさそうに夜神と服を入れ替え、イベントの仕事をこなす。
帰る前にはまた服を入れ替え、永夏は私と、夜神は秀英と一緒に外に出た。


「これからホテルに行くまでが一番危険です。
 出来るだけ人の多い所を通り、尾行者がいたら撒きます」

「……探偵ごっこは面倒な上に馬鹿馬鹿しいな」


確かに。
私の推理が正しければ数日以内に再襲撃がある筈だが。
それが外れて、次の襲撃が半年後などという事になれば、我々はともかく永夏にはこの生活は耐えられないだろう。


「仕方がないですね……では餌を撒きましょう」


私は大通りの反対側を歩いている夜神に、電話をした。






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