Twins 1 夜神は二日ほど熱を出して寝込んだ。 その間に中国棋院や日本棋院のメンバーが見舞いに来たが、勿論丁重に断る。 当の夜神は傷で発熱する事に慣れてきたのか、三日目の朝には回復してシャワーを浴びた。 「少し、窶れましたね」 様子を見に来た秀英は言っていたが。 さすがの永夏も食欲を落として同じく窶れたとの事なので、影武者として丁度良い。 「永夏さんは今日は仕事ですか?」 「夕方なら空いていると思います」 「では、その時美容室に行きましょう」 「美容室?」 秀英が帰った後、ストレッチや軽い運動をしながら夜神が溜め息を吐く。 「……お前、韓国語も普通に話せるんだ」 「まあ、北京語と同じ程度ですが」 「っていうか僕が寝ている間によくも勝手に話を進めてくれたな」 「あなた、術後で寝てましたし。 それに特にあなたの意見を求める必要は感じません」 「それは、僕の立場としてはお前に言われたら何でもするしかないけどね。 事前に一言あってもいいだろう」 いつまで経っても我が侭なお姫様だ。 何度同じ事を言わせるのだろう。 「本当にそう思ってるなら、その思考パターンを修正して下さい。 あなたは私の同僚でも友人でもありません」 怯むかと思った夜神は、何故か逆にニヤリと笑った。 そして、バスローブのままゆっくりと私の前まで歩いて来る。 私の座っている椅子の肘掛けに片膝を乗せると、私の鎖骨に指を這わせた。 「……あなたのそういう所、嫌いじゃないですよ」 前の合わせから太股に手を滑り込ませると、途端にするりと逃げて行く。 「リハビリ、しなくていいんですか?」 「まだその段階じゃない」 「今、戻って来なければもう追いかけませんよ?」 「なら僕は晴れて自由の身だ」 夜神は顎と右腕を上げて、大きく伸びをした。 「そんな訳ないじゃないですか」 素早く立ち上がってタックルするように床に押し倒すと、夜神は抵抗もせずに柔らかく横たわる。 「L」 「はい」 「僕を、抱きたいか」 黒く染めた髪が、暖色の絨毯に広がっていた。 「そうですね……私に抱かれて抵抗もしないあなたには魅力はありませんが」 立ち上がり、手を差し出しながら言うと、夜神はまたしても素直に立ち上がる。 「メス犬らしく尻でも振って見せれば、勃つかも知れません」 「悪いけど。犬じゃなくてダッチワイフだよ、僕は」 さすがと言って良いのか。 だんだん私を萎えさせるのが上手くなっている。 「嫌な男ですね、君は」 「優秀な男とは言われ続けていたけどね」 まあ……今日の所は良いだろう。 これから重労働が待っているのだから。 「今回の件で不幸中の幸いなのは、犯人がイベント関係者ではない事が分かったくらいですかね」 「だな。 お前と僕が永夏のスーツを借りていたのは、恐らくあの会場に居た者全員が知っていた。 それは知らなくて……。 だが、永夏がスーツをよく来ていた去年には、少なくとも永夏を知っていた、あるいはマークしていた人物」 当然同じ事を考えていたか。 「この間の襲撃からして、相手はかなり焦ってるな」 「はい。形振り構わない所まで来ているのでしょう」 「大体当たりは付けてるのか?」 「ええ。あなたの想像通りかと思います」 そう言って。 我々は共犯者のように笑い合った。
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