Night of Seoul 4 「永夏さんは確か、前も襲撃されていましたよね?」 「襲撃と言う程、大袈裟なものじゃない」 「だったかも知れませんが、もうこれで襲撃と認めざるを得ませんね?」 永夏は顔を顰めていたが、肩を竦めて肯定する。 「で、どうするんです?」 「どうって。別にどうもしない。 下らない連中がいるんだろうが、相手にするつもりはない」 「でも、今日だってあなた、死ぬ可能性あったんですよ?」 「……死ななかったじゃないか」 「結果論ですね」 刃物のように人を刺す視線は、夜神のそれに少し似ていた。 いずれにせよそんな事に動じる私ではない。 「おまえには関係ないだろう!」 「永夏!そんな言い方」 秀英が、やはり母親の口調で永夏を叱咤する。 永夏は子どものように口を尖らせた。 「だって、実際そうじゃないか」 「まあ、そうなんですけどね。 よろしければその心配を解消しましょうか、というビジネスのお話です」 「ビジネス?」 「はい。ご存じのように私は囲碁ではまだ食べて行けない、台湾で便利屋もしています」 「便利屋」 ここで秀英が私の意図に気付いたらしく、食いついてくる。 「便利屋って何をしてるんですか?」 「何でもですよ。ゴミ掃除が多いですね、社会の」 「ゴミ……」 「この案件の場合は、取り敢えず身代わりを立てて危険を回避します」 「……楽平と和谷、か」 「はいその通り。そして依頼を頂ければ犯人を駆除します」 「そんな事出来るのか?」 「するつもりです」 「さっき、ビジネスと言ったな」 「はい。害虫駆除まで合わせて合計七千万ウォンです」 「は?」 永夏は馬鹿馬鹿しい、と言った様子で虫を払うように手を振った。 「話にならない」 「高いですか?」 「法外だな」 「あなたの命はそんなに安いという事ですか」 「……おまえにその価値があるとは思えないって事だよ」 「ああ、その点はご安心を。 報酬は仕事が全て終わってからで結構です」 「……」 「勿論ハーメルンの笛吹き男になるつもりはありませんので、取りっぱぐれはありません。 幸いにもあなたに潤沢な資金がある事は調べついてますしね」 「……」 「どうします?このまま不安に怯えながら終わらない夜を過ごしますか? それとも、見ず知らずの私に賭けてみますか?」
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