Night of Seoul 2 秀英に使いを頼み、楊海と永夏と我々の四人でホテルに戻る。 彼等が夜神の姿を隠してくれたので、フロントにも怪しまれずに無事部屋に到着した。 と、すぐに秀英が言いつけた通り工事用のビニールシートを入手して戻って来た。 本当に役に立つ若者だ。 血で汚さないよう床に敷き、真ん中に夜神を寝かせる。 楊海と秀英は私がしようとしている事を察して手伝ってくれたが、永夏は相変わらず棒立ちだ。 「シャツを外します」 鋏で腕を縛っていたシャツを切り、スーツの袖も裂いて肩まで露出させると、赤黒い鮮血が迸った。 「う……」 秀英が口を押さえ、バスルームに駆け込む。 永夏は醒めた目で見ていたようだが、すぐに秀英を追ってバスルームに入った。 「ああ……せっかくのスーツが、台無しだな……」 無理に笑う夜神の顔は、さすがに土気色になっている。 「楊月、弾を摘出します」 「ああ」 「龍崎老師!それは!」 常に冷静な楊海が、慌てたように声を荒げた。 「他に方法がありません」 「麻酔とか!」 「そんな物持っている筈がありません」 夜神が旅行に持ち歩いている救急キットを広げ、傷口の上をタオルできつく縛る。 「マジか……」 楊海は、まるで自分がされているかのように顔を顰めた。 こんな事態は、常に想定していた。 自分だけでも何とか対処出来る自信はある。 夜神に別のタオルを渡すと、無言で口に咥えた。 「始めます」 ピンセットをライターの火で炙って消毒し、傷口を探る。 肉の焼ける匂いが、微かに漂った。 夜神がタオルを噛み締め、キシキシと耳障りな音が響く。 楊海も、もう何も言わず、夜神の身体を押さえてくれた。 秀英と言い、冷静で頭の回転が速い男は重宝だ。 「ありました。少し痛いですよ」 奥をこじ開けると、筋肉の組織に埋まった金属の一部が見える。 躊躇っていても仕方がない、一気にこじるように掴むと、夜神の身体が無意識のように跳ねた。 目を見開いて、顔を滝のような汗が流れている。 「もう少しです」 慎重に摘み、落とさないようゆっくりと摘出する。 終わると、夜神の全身の力が抜けた。 「少し我慢して下さいね」 化学繊維の糸を通した縫い針を、またライターで炙る。 皮膚に突き立てると再び焦げた匂いがしてまた夜神が硬直した。 幾針か縫って何とか傷口を塞ぐと、やっと出血が収まる。 いつの間にかビニールシートから零れんばかりに血が流れていた。 「終わりました」 一応消毒してガーゼを防水シートで貼り、患部の上をタオルできつく縛る。 夜神はもう、痛みに反応する体力も残っていないようだ。 しかし、呻き声一つ上げなかったのはさすがと言って良いだろう。
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