Baduk 4
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前半は韓国棋士代表と中国棋士代表の対局だった。

なるほど……。
韓国と中国は棋力でかなり競っているらしい。

記録に残る訳ではない、エキシビションマッチのような物らしいが、それぞれ気合いが入っている。
永夏と控えめな趙石は、意外と良い対局になっている。
安太善と楊海は、お互いトリッキーな打ち手で先が予想出来ない。

夜神も、口元に手を当てながら伊角や日煥と真剣に検討しながら観戦している様はまるで本物の棋士のようだった。


「龍崎さん」


その時、後ろから肩を叩かれ、振り向くと


「和……いや、楽平」

「ははっ!聞いたよ?いっぺんで和谷とボクを見分けられたって?」

「結構違いますよ」

「まあ、よく見ればそうなんだけど、初めての人には間違えられるのが当たり前になってたから」


楽平の方が少し若い……その分言動が軽いが、本人はそれを意識してやっているように見える。


「どうですか、うちの趙石は」

「強いですね」


典型的な優等生の打ち筋。
普通はそれではどこかで頭打ちになるのだが、その壁を力尽くで越えてきたような強さがある。
塔矢アキラの棋風に少し似ているかも知れない。


「あいつにはいつか勝ちたいと思ってるんだけど、この十年で数える程しか勝ててません」

「そうですか……」


楽平の棋力はどのくらいなのだろう。
中国棋士のデータは必要ないと思って頭に入れてこなかった。


「龍崎さんは?」

「はい?」

「強いと聞いています。趙石に勝てると思いますか?」

「さあ……どうでしょう。打ってみなければ分かりませんね」


楽平は、面白い話を聞いたかのように笑いながら少し目を見開いたが、すぐに真顔になる。


「なるほど。
 ボクは棋士の中で強い方ではないかも知れませんが、楊海さん仕込みで人を見る目はあるんです」

「ほう」

「あなたは得体が知れない……けれど、相当強いんだと思います」

「それは……買い被られているような気もしますが頑張らなければなりませんね」


結局、永夏と趙石は後半趙石が失速して永夏の中押し勝ち。
安太善と楊海は、楊海が三目半差で勝った。





昼からは、棋戦ではなく交流会だった。
韓国と中国の棋士が碁を打つのには違いないが、九路盤であったり、リレー式であったり。
客はそれぞれのイベントを自由に見て回っている。
そこに、棋戦で参加しなかった棋士や、日本の和谷や伊角が飛び入り参加していた。


「台湾……というかお前も、この時間に好きなように参加しろって事かな?」

「どうでしょう」


そこへ、安太善が早足でやってきた。


「あ、龍崎先生、いたいた!」


私の手を引いて、一つの碁盤に向かう。


「いきなりですが、趙石と打って下さい」

「はぁ」

「よろしくお願いします」


先程負けた趙石は、もう涼しい顔で碁盤の前に端座している。


「で、ちょっとご相談なんですが……少し変わった対局をしていただきたくて。
 一色碁と、私と組んでリレー碁と、どちらが良いですか?」

「一色碁で」


即答に、安も趙石も少し仰け反る。
こんな連続思考を必要とするゲームで他人と組むのなんぞごめんだ。


「へぇ……龍崎老師、一色碁出来るんですね」


趙石が、妙な笑顔で言う。
そうか……こいつ、少しニアに似ている……。
小柄で少女的な見た目だけじゃない。
絶対に見せない内心の傲慢、滲み出る慇懃無礼。

それで油断ならない印象だったのか。


「お相手願います」


向いに座り、靴を脱ごうとしたが夜神に睨まれてやめる。
頭を掻きながら一礼すると、趙石も一瞬眉を顰めかけた後身体を前に折った。


「わー!ちょっと待ってちょっと待って!」


その時、ばたばたと誰かが走ってきた。


「いよいよ龍崎老師が神秘のベールを脱ぐって?」


どっと周りを笑わせたのは、楽平だ。
後ろから楊海ものんびりと歩いて来る。


「楊海さん、早くしないと駄目だって!
 一色碁だから最初から見てないと分からないよ!」


一色碁という言葉に何人かが振り向き、ギャラリーが集まる。
余計な事を……。


「ほら、楽平もういいだろ。
 初めて下さい、お二方」


安太善の言葉に、趙石が石を握った。






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