Baduk 3 会場に到着すると、各国の棋士や関係者が揃っていた。 対局順や解説など細かい打ち合わせをしているようだ。 「あれ?」 正面を向いていた隣で夜神が口の中で呟く。 「何か妙な事がありましたか」 「いや……あの中国の楽平って、昨日はもう少し背が高かったような」 楊海の隣に、昨日とは違うスーツの……いや。 私が口を開く前に、夜神も小さく首を振った。 「違うな」 彼はすたすたと歩いて行くと、楊海に声を掛ける。 「昨日はありがとうございました」 「お、楊月くん、そのスーツ」 「バレましたか。高永夏さんにお借りしました」 「いや、バレてないよ!昨日とテイストが違うなって言おうとしただけだし」 夜神は笑顔を見せ、楊海の隣に顔を向ける。 「こちらは?」 楊海と人物は答えず、顔を見合わせた。 「楽平くんのご兄弟ですか?」 「……凄いね、楊月くん。 初対面の人はほぼ楽平と間違えるのに」 「似てますよね。でも背が少し違う」 楽平に似た男は戸惑ったように二人の顔を交互に見る。 と、楊海が突然日本語で、 「ワヤくん、この人は台湾棋院の棋士の人と通訳さん。 キミが楽平じゃないって一発で見抜いたよ。凄いね」 楽平もどきに話し掛けた。 驚く程流暢だ。 中国棋院の棋士歴を見ると日本に長期間居住した事はない筈だが。 夜神も面食らった顔をしている。 「へえ!観察力が鋭いですね。って日本語分からないか」 「通訳の楊月さんは日本語も行けるらしい」 「マジで!あ、スミマセン、オレは日本棋院所属の和谷と言います」 「初めまして。通訳の楊月です。こちらが棋士の龍崎。 龍崎、他属于日本棋院……」 「うわ、めっちゃ日本語上手〜」 どうやら見た目だけでなく、キャラクターも楽平と似ているようだ。 「では、お二人が似ているのは」 「偶然偶然。な、イスミくん」 「はい」 楊海の隣で微笑んでいた別の若い男が頷く。 この男も日本人か。 「私も日本棋院所属の伊角慎一郎と言います」 「初めまして。あの、今回日本は……」 「ああ、参加はしていませんがボク達は偶々中国に研修に行っていて」 「無理矢理くっついて来たんだよ、こいつら」 「酷いなぁ、楊海さん。 見学って言って下さいよ」 中国棋院に研修に行っている、和谷と伊角。 年代も同じ位だ、当然進藤ヒカルや塔矢アキラとは知り合いだろうな。 「最初オレ一人で中国棋院に行って、楽平を見た時は本当に驚きました」 「和谷さんがいる、と?」 「いえ、その時は楽平の方がだいぶ低かったし色も黒かったから間違える事はありませんでしたが」 夜神と伊角達がどうでもいい話をしている間に、辺りを見回す。 韓国勢は……中央に陣取っているな。 左手に永夏と秀英……右の方に安太善と年配の棋士、それと……あれはスポンサーの金寅か。 見た所、安は永夏にスポンサーに愛想を振りまいて欲しそうだが上手く行っていないようだ。 金寅がどんどん不機嫌になって行く。 日煥と秀英はもう挨拶を済ませたのか、手持ち無沙汰な表情だ。 棋士は実力社会だが、客やスポンサーには媚びなければならない所もあるだろう。 あれではまた恨みを買うだろうな……。 「で、楊月さん、そのスーツ永夏のだって?」 「はい、不注意で駄目にしてしまったのでお借りしました」 「珍しい色だよね、楊月さんか永夏じゃないと着こなせない」 「ああ、モデルみたいだ」 褒められて夜神が満更でもなさそうに笑う。 「実は、龍崎も高さんにお借りしてるんですよ」 「そうなんだ!」 楊海と和谷と伊角と、おまけに趙石までもが目を丸くして私を見た。 なんなんだ。 「楊月……」 私が余計な事を言うなと言いかけた時、イベント開催が近付いた事を告げる声がスピーカから流れた。
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