Interview with East Asia 5 「泣いてます?」 「……泣いてない」 事後、全てを出し切って脱力している一瞬。 夜神は何とも言えない自己嫌悪の表情を見せる。 それは、彼のプライドを粉々にするという破壊衝動と征服感を満足させる物だった。 いつも私はゾクゾクしてしまう。 少しづつ、しかし着実にキラを飼い慣らせているという証拠なので。 しかし夜神もさるもの、最近は何でもないという表情で、あまつさえ自分の方が楽しんだと言わんばかりの余裕の表情で朝を迎える事も多い。 「L」が最も手を焼いた獲物がそれだけの強さを未だ保っていると主張しているようで……。 それはそれで嬉しくなってしまう自分自身にも、ほとほと呆れてしまう。 「で。どうするんだよ、スーツ」 「あなたも途中で気付いたから応じたのでしょう?」 「やっぱりそういう事か」 「はい」 「何回も言うけど、最悪だ、おまえ」 夜神は文句を言いながら起き上がり、脚の間から垂れた液体に舌打ちする。 破れたスーツで乱暴に拭った後、中腰でテーブルの上に広げたノートPCに向かった。 メーラーで開いたメール作成画面の相手は秀英だ。 『お世話になっています。台湾棋院の楊です。 今日はありがとうございました』 相手もまさかこんな間抜けな格好でお堅い文章を作っているとは思わないだろうな。 まあ、どこでハッキングされるか分からないメールで、夜神と私がLの関係者だと分かるような返信をされるのは不味い。 こう書いておけば、秀英にもそれは伝わるだろう。 『夜分にすみません。 不慮の事故で持って来たスーツが駄目になってしまいました。 龍崎もスーツを持っていないので、早朝から開いているテーラードを教えて頂けませんか?』 明日のイベントの集合時間は、朝の八時だ。 どう考えても間に合う筈が無い。 返事はすぐに来た。 『その時間に空いている量販店はありません。 個人経営の仕立て屋なら何とかなるかも知れませんが、短時間でスーツを仕立てるのは無理です。 楊月さんのスーツを修復した方が早いと思います』 『大幅に汚れていますし、破れてもいます。そちらも不可能です』 今度は返信が遅い。 何をしてそんな事になったのか、考えているのだろう。 夜神は構わず追撃した。 『どなたかにお借りできないでしょうか? 勿論クリーニング代はお支払いします』 今度はまたすぐに返信が来る。 『一番体格が近いのは楊海さんでしょうか』 『いえ。楊海さんも国外で余分なスーツは持っていないでしょうから、高永夏さんにお願い出来ないでしょうか?』 また、十五分ほどの間。 秀英が我々の狙いに気付いて、余計な事を書いて来なければ良いと思ったが。 『永夏に了解を取りました。 明日、集合時間の十五分前にスーツを二着持って来るそうです』 秀英の返事は、我々が思った以上の物だった。 彼のお陰で今回の事件はスムーズに片付くかも知れない。
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