Interview with East Asia 3 中国棋院のメンバーとの会見が終わり、安は私達を韓国棋院メンバーの元に連れて行ってくれる。 いよいよか。 やはり一際目立つのが、高永夏だった。 写真では見慣れているが、実際に会うとさらに華やかで濃い。 「へぇ〜、台湾棋院、ねぇ。台湾って日本より強いんだった?どうだったっけ?」 我々の名前を覚える気もないようだ。 それならそれで、都合が良いという物だが。 「永夏!せっかくの機会なんだ、仲良くしてよ! 台湾棋院の人と会える機会なんて、そんなにないよ?」 驚いた事に、年上の永夏を叱ったのは秀英だった。 我々をフォローしてくれているつもりなのだろうが、永夏も秀英には強く言い返さないのが面白い。 永夏は秀英から目を逸らし、 「っていうか舐めてんの、その格好。 それとも貧乏なの?」 私のTシャツとジーンズを、上から下まで睨め回すように見下ろし、見上げた。 出る前夜神に、スーツかせめて襟付きのシャツだろうと言われたのだが拒否したのだ。 そんな窮屈な格好をする位なら、最初からこの国に来ない。 夜神はちゃっかりスーツを着ていた。 「まあまあ永夏。我が国がホスト国だという事を少し考えた方が良いよ」 驚いたのが、韓国棋院のスタッフだと思っていた安が、プロ棋士だという事だ。 つまり、秀英から事前に永夏の関係者として名を上げられていた“安太善”……。 それなりの実力者で、中国棋院の楊とも因縁がある人物らしい。 「安さんって、安太善先生だったんですね……」 「そんなに大した物じゃないよ」 「だってこのメンバーで言えば、」 そこで夜神が何かに気付いたのか言葉を止める。 「林さんって、林日煥さんですよね。 偶然かも知れませんが、十年ほど前日本で行われた韓中日の棋戦に出たメンバーが揃っていませんか?」 「ああ。確かに選手も団長である私も揃ってるね。でも偶然でもないよ。 全員精進を重ねて順調に昇段して来たという事だ。 今回のようにトーナメントでもなければ、国際棋戦に慣れた者が名前が挙がりやすいし」 「棋士の数が段違いの中国もですか?」 なるほど。 進藤ヒカルのメールにあった「北斗杯」。 中国チームの団長は確かに楊海だった。 陸力や趙石も出ていた気がする。 だが。 「しかし、中国チームは一人足りませんよ」 「ああ、王世振という人がいない、か」 「偶然ですよ。何より、日本チームが誰一人いないじゃないですか」 「それもそうですね、何故呼ばなかったのですか?」 「ここだけの話」 安太善が声を低めて、顔を寄せる。 「最大スポンサーの金寅さんが日本嫌いでね……」 「なるほど」 その時、こちらを無視するようにグラスを傾けていた高永夏が大きな声を出した。 「オレも日本は嫌いだよ」 「永夏!」 「日本の棋士にだけは負けたくない。 来ればこてんぱんにしてやったのに。トーヤもシンドーも」 安太善は苦笑し、これまで無言だった日煥も 「永夏、おまえどれだけ塔矢や進藤が好きなんだよ」 と、呆れたように言う。 永夏は 「何だと!」 といきり立ちそうになったが、我に返ってニヤニヤ笑いを取り戻した。 「オマエは好きだよ、日煥」 「……」 「アイツらみたいに思い上がってないから。 自分がオレに勝てないと、オレより下だと自覚してる」 「っ!」 今度は日煥が拳を握りしめる。 どうやらこの二人も仲が悪そうだが、それにしても永夏は敵を作りすぎだな。 自分が命を狙われている自覚がない、のか。 あるいは、自分が犯人なので恐れがないのか。
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