Second contact 6 「で。お願いを聞いてくれるんだろう?」 欲望を吐き出してその後始末をした後、夜神は早速ニヤリと笑って口を切った。 自己嫌悪から立ち直るのに時間が掛かるだろうと踏んでいたので、少し意外に思う。 「全く。下らない事に情熱を注ぐ所は相変わらずですね」 「別に下らなくはないよ」 「あんな恥ずかしい演技をしなくても、もう少し押せばあなたを出しましたよ?」 夜神をいたぶるつもりで言ったが、予想していたのだろう、彼は顔色一つ変えなかった。 「……そう言う風に言えば悔しがるんだ?おまえの中の夜神月像は」 「……」 本当に、下らない。 我ながら子どもっぽいが、夜神相手だと一歩も引く気になれないのが口惜しい。 「で。来月のイベントには行かせてくれるんだよな?」 夜神が話を戻したので、私も今までの経緯は一旦リセットして事件解決に集中する事にする。 「それでは遅いです。 他に、彼が初対面の人と会うような機会は?」 「来週からソウルで中国棋院との合同イベントがあるけど……さすがに急だし」 そう言いながらも、手は忙しくキーボードを叩いて航空券の予約ページを開く。 勝手な事をと思ったが、同じ事を命じようとしていたので言葉を飲み込んだ。 「おまえ一人で行く?」 「その間あなたは?」 「ニアと遊んでる」 「手を出されては困るので、二人分チケットを取って下さい」 「へえ。僕が日本から出ても良いんだ?」 ニヤニヤするのが鬱陶しい。 「まあ、タイであなたが逃げ出す勇気がない事も分かりましたし。 国外では意外と不器用で臆病な事も分かりましたし」 屋台でカモにされたり夜の店で狼狽えていた事を軽く揶揄うと、やっと不機嫌そうに口を引き結んだ。 「お客さんとしてなら何とか潜り込めるかな」 「それでは足りません」 夜神はモニタを見ながら少し考えたが、やがて台湾の警政署へのメールを作成した。 「中国の警政司を通した方が良い?」 「いえ。面倒なので良いでしょう。 そちらを信頼しているから敢えて中国の中央政府を飛ばしたのだと、釘を刺しておいて下さい」 内容は、「L」として、台湾棋院に正式に協力を依頼するという事。 来週の中国棋院と韓国棋院の合同イベントに、台湾棋院として強引に拗込む。 そして……その一員として、何も訊かずに「龍崎」という人物を配置せよとの事だった。 「何ですか、この龍崎って」 「前回の事件では僕が陽動だっただろ?」 「ですから。私は出来るだけ顔を曝したくないのであなたに頼んでるんですけど」 「頼まれた覚えはないんですけど」 この男……! 何かと機会を見ては、私と対等な立場に立とうとする。 もはや遊びや冗談の域に達しているのだろうが、私としてはやはり流す訳には行かなかった。 「解りました。では今回は、台湾人棋士龍崎として参加しましょう。 あなたはお弁当兼通訳として同行して下さい」 「お弁当?通訳?」 「お弁当というか、夜食ですね」 「……」 「それに来週までにネイティブ並になっておいて下さい。韓国語」 夜神は眉を顰めて立ち上がる。 「どこへ行くんですか?」 夜はこれからなのに。 「寝る間を惜しんで韓国語を勉強する。 高永夏の事件の下調べは、おまえがやっておくんだな!」 「勿論北京語もですよ?」 「北京語はもう大丈夫だ」 ほう、と思っている間に、部屋の隅で既に毛布にくるまって寝ていたニアを抱き上げて部屋を出て行った。
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