Second contact 1 カヒュ。 カヒュ。 何とも間抜けな電子音が響き渡る。 小さな音ではあるし、時計の秒針と同じで気にしなければ気にならないのだろうが。 「月くん……」 カヒュ。 ……カヒュ。 「月くん」 少し語気を強めて言うと、電子音は止まった。 やっと察したかとその音源に顔を向けると……モニタの明かりに照らされた夜神月の横顔はただ静止している。 「どうしたんですか?」 名を呼んだのはまるで質問の為であるかのような口調で、私は尋ねる。 夜神は少し頭を傾け、「これ」と画面を指差した。 仕方なく足を運ぶと、画面の左三分の二を占めた碁盤は半分ほど白黒の石で埋まっている。 先程の間抜けな電子音の原因、オンライン対局画面だ。 そして残りの三分の一のチャット画面に、いつもはない文字列が現れていた。 『sai。今更だけど、オマエ、オレが知ってる奴だよな?』 『sai』は夜神のオンライン囲碁ゲーム用のID。 相手の名は、『KIRA』。 夜神は偶に、オンラインで見知らぬ相手と碁を打つ。 今まで負けた事はないらしい。 特に相手を選んでいる様子はなかったが、その強さはやはり噂になっているようで、ログインすれば沢山の対局申し込みがあった。 今日はその中で……以前縁のあった進藤ヒカルというプロ棋士が使っているID、『KIRA』を選んだらしい。 恐らく本人だったのだろう、相手もさすがプロ、何手か打てば自分が打った事のある相手かどうか、分かってしまったようだ。 まあ、ネット上で碁を打つくらいは構わないが。 「月くん、分かってますね?」 釘を刺すと、夜神も苦笑して、応えずにただ石を置く。 カヒュ。 『オマエの事をきくつもりは全くない。メッセ出来ないか?』 夜神が無視していると、相手の持ち時間はどんどん減っていく。 前回の事件で、夜神が「キラ」だと松田に言われた筈だが……。 恐ろしくないのだろうか? それとも取り調べの中で、松田が否定したのだろうか。 やがて持ち時間がゼロになる直前、諦めたように石が置かれた。 『オマエの師匠に、どうしても頼みたい事があるんだ』 夜神と私は、思わず顔を見合わせる。 夜神の碁の師匠と言えば、私を指すのだろう。 そして進藤ヒカルは私が、探偵「L」か、あるいはそれと同等の推理力を持った人間だと知っている。 夜神は少し眉を顰めると、私が止める間もなく高速でタイピングした。 『僕ではお役に立てませんか?』 「月くん!」 全く。 こういった場面で負けず嫌いが暴発する所は、高校生時代から変わっていない。 夜神に言わせれば、「おまえ相手の時だけだよ」という事になるらしいが。 『良かった!この対局終わったらメッセ見て。頼む!』 先方はかなり切羽詰まった様子らしいが、碁の対局は捨てないのか……。 まあ、こんな単細胞だから夜神との付き合いも許すのだが。 「月くん。勝手な事をしないで下さい」 「悪かったよ。心配なら隣で見てろよ」 「当然です。というか私がメッセージ交換します」 「えっ」 それから夜神は調子を崩し、中押しで負けた。
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