The keyhole 4 弛緩した夜神の、前に手を伸ばしたが抵抗はない。 ベッドの側面についた精液を指に絡め、尻の穴に入れて、 絶頂後のひくひくした部分……前立腺の膨らみを押すと。 「くっ……!」 快楽の名残が押し出されたのか、絨毯にぽたぽたと水分が落ちる音がした。 「月くん……抵抗しないんですね」 「……」 「情けなくないですか?私に指だけでイかされて」 「……おまえ、本当に、容赦ないね……」 「はい。目的は、あなたのプライドを粉々に打ち砕いて 私に逆らえないようにする事ですから」 「危険だな。そんな中途半端なことをして、次に僕の前で油断したら 本当に殺してしまいそうだ」 「大丈夫です。油断なんかしませんから」 あのキラを、一度は私を殺した者を飼うのだ。 よほど強固な檻を作らなければ、枕を高くして寝られない。 「そんなに疑うなら、いっそ僕を殺した方が楽なんじゃないか?」 「……」 いっその事、一思いに殺してしまうか。 夜神の裏切りを警戒しながら、キラを助けた事が明るみに出まいか気にしながら このまま生活していくよりも、それは楽な選択だろう。 教授や金髪を追うにしても、気持ちに余裕が生まれる。 彼らの手にキラやデスノートが落ちる事は、あり得なくなるのだから。 ……それでも、生かしておいた方がメリットがあると思うから、生かしたのだ。 この稀有で美しい猛獣を。 「あなたこそ、まだ私から逃げないんですか?」 「また言うか。これだけ言う事聞いてやっているのに」 「やっている」なんて、介護して貰っておいて言う台詞か。 夜神のことだから分かって私を苛立たせようとしているのだろうが。 「おまえから離れたら、僕の動画が流出してもすぐには把握出来ない。 ある瞬間からいきなり世界中が敵になるかも知れないのに ここから逃げられる筈がないじゃないか」 「それを理解してくれているのなら良いんです」 「おまえだって本当は僕が逃げたら困るんだろ? いざとなった時にすぐに始末できないからな」 もし動画が拡散してしまっても、夜神の死体を出して見せれば 最悪「L」の立場は保たれる。 その事を言っているのだろう。 実際はそんな事はすまいと高をくくっているから気軽に口に出来るのだろうが。 私を甘く見過ぎだ。 「そうですね。では、リハーサルをしておきましょうか」 不意打ちで片足を持ち上げてベッドに仰向けにすると、 腕が背中の下敷きになったらしく夜神が声にならない悲鳴を呑んだ。 柔らかいマットレスだ、背中はもうさほど痛むまい。 話しながらゆるゆると指を動かし、拡張しておいた穴に私を押し付けた。 今回の行為には、前回とは別の意味がある。 夜神の体が……私を、裏切っていないかどうか、 「りゅう、」 「苦しませはしません」 確認したい。 ……あの金髪が、夜神に何かをしていたとするならば、この体勢だ。 仰向けのまま、両足を持ち上げて。 こんな風に……。 「ああっ」 一気に突き入れると、夜神は大きく口を開けて呻いた。 少し動かすと、力を抜こうと必死で大きく呼吸をする。 ……入れる時、不自然に嫌悪されたり恐れられたり、 逆に慣れていたりしないか…… 確かめるなんて、嫉妬深い男がする事のようで気が進まなかったが、 実際抱いてみたらそのような反応はなく胸を撫で下ろした。 自分が夜神にしたのと同じ事を、あるいはそれ以上の事を、 他の男にされたとするならば。 私が作ろうとしている檻が、不全になる。 今後「契約」をするのに、セックス以外の手段を考えなければならなくなる。 それは面倒だ。 だから、夜神がいらぬ悪戯をされていなかったのは素直に喜ばしい。 「一息に、天国に行きたいですか?それとも、じわじわと?」 「じご、くだ……」 「苦しみながら逝きたいんですか?困った人ですね」 夜神の中が私に馴染むのを待たず、大きく抜き差しすると 体を硬くして、眉を寄せる。 私を受け入れながら、心で拒んでいるのも相変わらずだ。 「……変な癖は、ついていないようですね」 「何の、話だ、」 「あの金髪の少年に、調教されていなくて良かったです」 「頭おかしいんじゃないのか!ぁ、」 そのタイミングで前立腺を突いてやると、語尾の呼気が乱れて しまった、というように歯を食いしばった。 「安心しました。私だけの月くんでいて下さい」 「だからそういう、気持ち悪い事、言うな!」 「つれない事を言わず、前のように私に縋り付いて言葉で煽って下さいよ」 「いや、だ!……あ!あぁ、」 しばらく翻弄すると夜神は、 「痛い!背中が、本当に、」 と真実らしい悲鳴を上げ始めた。 私も気が済んだので、入れたまま凭れ掛かって休息を取る。 夜神は目を開けたまま、焦点の合わない視線を天井に向けていた。 「月くん」 「……何だ」 「どうしてそんな、切なげな顔をしているんですか? 何を考えているんですか?」 「そんな顔してない」 「ちょっとはピロートークというやつに付き合って下さいよ」 「別に……ただこうされる度に、『夜神月』が、十代までのあの 『おめでたい夜神月』が遠ざかって行くような気がしてただけだ」 「どういう事ですか?」 「昔の僕なら、男に抱かれるなんて絶対に許容出来なかっただろうから」 「何言ってるんですか。遠ざかったと言うなら『デスノートを使う度に』でしょう。 『幸せな夜神月』くんを殺したのは、あなた自身ですよ」 「それもそうだ」 苦笑する夜神の頬に、指先で触れると目を見開いて怯えを見せる。 「ではそろそろ、殺していいですか?」 「……」 「分かります。私より先にいくのが嫌なんですね? でも、必ず後を追いますから」 スパートを掛ける為に片足を持ち上げようとすると、 突然カッと目を見開いた夜神が大きく足を振り上げた。 踵落としを避けて一歩下がると、そのまま体を反転させて逃げようとする。 ……全く、本当に殺される訳でもあるまいに、往生際が悪い。 足首を掴むと、あっさりと捕獲できた。 「見苦しいぞ、夜神月」 「……」 たった一言で、見事に動きが止まる。 ならば最初から逃げなければ良いのに。 「それとも、 doggy styleが良いと言いたいんですか? それならそうと口で言って下さい」 肩越しに睨んできた目は、少し潤んでいた気がするが それでも私の意図を正確に汲み取って、不承不承犬の姿勢を取った。 本当に察しが良くて助かる。 局所を曝して四つ這いになり、私を待つ夜神は酷く扇情的だった。 首から下がった鎖と手錠が、本当に首輪めいていて 何か大型犬でも飼ったような気分になる。 そう思うと私は今から犬を犯そうとしている事になるが、 その発想は私を萎えさせるどころか奇妙な高揚の渦に巻き込んでいった。
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