The keyhole 3
The keyhole 3








「何」

「もう、傷は殆ど癒えましたよね?」


書籍を取り上げてベッドサイドに置き、ゆっくりと、私にしては優しく
気を使いながら夜神を押し倒す。


「何考えてるんだ……」

「いいじゃないですか」

「おまえはゲイじゃないんだろ?」

「と思っていましたが、どうも男性の方が向いているかも知れないと思い始めました」

「どうして」

「あなたのように女性を手玉の取れる程マメじゃないんで」

「うるさい」

「それにあなたの肌を、快く感じましたし」


それまで不機嫌な表情を浮かべていた夜神は、
途端にあざ笑うようにニッと笑った。


「なら抱いてやるから脱げよ。
 セックスなんかしなくても、僕の肌は気持ちよかったんだろ?」

「やはり起きていましたか。本当に性格が悪いですね」

「僕が死んでも涙一つ流さなかった奴に言われたくないな」

「あなたはそれどころか笑ってたじゃないですか。
 あの笑顔は醜悪でしたよ」


今度は私が笑顔を浮かべて揶揄うと、彼は不機嫌に戻って
横を向いた。


「……とにかく。僕はゲイじゃないし、おまえとはもうしない」

「どうしてですか?『私を体で繋ぎ止める』チャンスですよ?」


夜神は何かに驚いたようにこちらに向き直る。


「ああ……。そんな事言ったな。でも、もういいんだ」

「どうしてですか?」

「おまえが僕を、助けに来てくれたから」

「……」

「それでもう十分だ」

「……」


……そんな事を言われても。
助けに行ったのは、ニアに言われたからで。

私は夜神にデスノートを使うつもりだったし、死んでいてくれた方が
面倒がないとまで思った。
確かに手駒としては十分に使えるし居ないより居た方が良いが、
一度助けられた位で、この心の中に入り込めたなどと思われては困る。

私がおまえを必要としているだなどと、少しでも思われるのは心外だ。


「……足りません」

「え?」

「私、まだまだあなたを信用していません」

「……」

「もっと私の信頼を欲しがって下さい。尻尾を振って下さい」


立て続けに言いながら首筋に顔を埋め、手錠の鎖の下に舌を入れた。
夜神は苦しそうに身じろぎする。


「やめ、性欲処理なら他でしろ!女が怖いならダッチワイフを買ってきてやる!」

「不要です。既に月くんというダッチワイフがあるのに」

「この……!」


夜神は火が噴き出しそうな目で私を睨んでいたがしかし、
しばらく考えた後、また横を向いて目を閉じた。
割り切りが早い。


「……そうだったな。僕はおまえの飼い犬だった。
 いいよ、やれよ。まだ痛いから後ろからな」

「ありがとうございます」


礼を言って抱かせて貰うなんて、どんな奴隷だ。
絶対に、立場を思い知らせてやる。
おまえは、私より下だ。


「言って置くが、本当に余計な事はするなよ。
 さっさと入れて、」

「さっさと終わらせよう、ですね?まあそこは『飼い主』の気分に任せて下さい」

「ちょっと!」


うつ伏せになった夜神の、パジャマのズボンを脱がせる。
自分で脱ぐつもりだったらしい夜神は、慌てたように引き上げようとしたが
その指に唇を押し当てると、驚いて手を引っ込めた。


「ロ、ローション取って来てくれよ」

「大丈夫ですよ。私が舐めてあげます」

「やめてくれ!」


悲鳴のような声を上げる。
なるほど、そういうのが苦手なのか。


「私にも、あなたを味わわせて下さい」


下着も引き下ろし、仰向けてその局部に顔を寄せる振りをすると
思い切り膝頭でこめかみを蹴られた。
その威力からすると回復度は80%くらいか。


「僕に嫌がらせをするためだけに、そこまでするおまえが信じられない!」

「あなたと同じ事をしようとしただけです、が」


例によって、一回は一回ですと呟きながら怪我人を殴り倒す。

血でも出たのか、口元を拭きながら起きあがった夜神は、
のろのろとベッドから降りて床に膝を突き、懺悔でもするかのように
マットレスに上半身を預ける姿勢を取った。

こちらに曝されたその背の……特に肩胛骨や尾骨の辺りには、
まだふさがったばかりの傷口が生々しい。
薄く破れやすいピンク色皮膚が、危うく張りながらてらてらと光っていた。


「……ここで、いいか?」

「そうですね」


確かに、一番背中に負担が掛からない体勢だろう。
だがそれ以外に、絶対に私に局所を触らせまいという意図も感じられる。
まあ、それならそれで。

考えを巡らせながら、私も服を脱いで覆い被さった。
夜神が嫌がるのを承知の上で、肌をぴったりと合わせて
腹で夜神の背中の感触を楽しむ。


「早く、入れろよ」

「凄いセリフですね」

「黙れ!」

「あなたこそ」


煩い口をふさぐ為、今までくわえていた指を望み通りに足の間に伸ばす。
下の口を塞ぐと上の口も静かになるのが面白い。


「あ……」


唾液に濡れた指を潜り込ませると、掠れた声がした。
一瞬遅れて目の前の背中がびくりと震え、硬くなる。
感じたことより、声を出してしまった、自分が自分で許せない、のだ。
きっと。


「セクシーな声です。もっと聞かせて下さい」


硬くなりかけた物を押しつけながら、耳元に囁くと、
逃れるようにシーツに顔を押しつけた。
意外に可愛い事をする。

二本に増やした指を、ペニスに見立てて卑猥に出し入れしていると
遂に夜神が弱音を吐いた。


「頼む、から」

「何ですか?」

「……そういう、意地の悪いことをしないでくれ。
 さっさと終わらせてくれ」

「犬には躾が必要です。あなたを私好みにカスタマイズしたいんです」

「おまえ。いつか、刺されるよ」

「あなたにですか?」

「そう」

「用心しましょう。そんな事より今は、声を出して下さい。
 そちらの方が好みです」

「ダッチワイフは声を出さない」


頑な態度にイライラして、肩胛骨の傷をぺろりと舐めると、


「ひぃっ……やめ、ろ!」


予想以上の反応が返ってきて、思わず傷に執着してしまった。
皮膚が薄い分、感覚が鋭敏になっているのだろう。


「うぁ、あぁ、や、……」


両方の肩胛骨を何度も舌でいたぶり、背骨の椎骨の上の傷を
一つづつ丹念に舌先でくすぐって行くと、その度に夜神は
身悶えしてマットレスの中に向かって小さな悲鳴を吹き込み続けた。


「ほんとに、やめ、ぅわ!」

「可愛い声ですね。甘えてるんですか?」


腰の骨を下り進み、尾てい骨の上の一際深い傷を舌で抉ると、
夜神は耐えきれずベッドの上に逃れようとする。
それを許さず穴の中で指を動かしながら執拗に舐め続けていると
やがてシーツを鷲掴みにした指がカタカタと震え始めた。

夜神は性器に触れられず、私の指と舌だけで、達した。






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