神社再詣 2 「ククク……」 「紹介するよ、Lだ」 「ああ。よ〜く知っている。よろしく」 「はぁ……私の方は初めましてですが」 竜崎は驚きながらも臆せずリュークと握手をする。 僕がリンゴを投げると、死神は竜崎の手を振りほどいて飛びついた。 「ウホッ!」 「死神にも色々なタイプがいるんですね…… これでこのノートが本物だという事には疑いの余地がありません」 じっとノートを見つめる。 そうだ、そのまま呆然とノートを手に取れ。 おまえの冷静さを失わせる為に、リュークが現れるであろう事も 敢えて言わなかったんだ。 だが。 「月くん、どうぞ」 何!? 竜崎が、缶ごとノートを僕に差し出す。 「……」 「どうしてまず私の持たせるんですか? まず自分が持ち、私に触らせないようにしそうな物ですが」 「それは……まず死神を、」 所有権の事は知らない筈なのに、恐ろしい程の勘だ。 僕が受け取ろうとしないのを、明らかに不審に思っている雰囲気がある。 「死神は見ました。何だか湿気ていて気持ち悪いので蓋しますね」 「竜崎!」 「何ですか?」 竜崎はノートを缶の中に残したまま、蓋をしてしまった。 リュークがまた「ククク」と笑っている。 くそっ! 竜崎にリュークを憑かせれば、奴の動きは制限される。 そしてその間に、何とか所有権を放棄させれば……。 ……竜崎は、デスノートに関する記憶を全て失う……。 捜査本部の人間は色々言うだろうが、記憶を失って疑心暗鬼になった竜崎は まっすぐに受け取れない。 そして、僕を本気で疑っていた事も、忘れる筈だ。 竜崎以外誰も僕を疑っていないんだから、もう勝ったも同然。 あとは、このノートでキラ復活だ。 もう、竜崎が手強い奴だという事も、その手の内も分かっている。 次はこんなヘマはしない。 「……ノートに書く奴の名前、決めて来たか?」 「ええ、まあ」 「なら今書いてくれ。ここなら人目もなくて丁度良いだろう」 「書きにくいから嫌です」 「なら、二度とノートに触らせないぞ」 竜崎は、人差し指を咥えたまま少し考え、再び缶の蓋を開けた。 「……書くもの持ってます?」 「ああ。この鉛筆を使ってくれ」 鉛筆を親指と人差し指で抓み、キョロキョロと辺りを見る。 だがこんな雑木林に真っ直ぐなところがあるはずもなく 結局、地面に缶を置いてしゃがみこんだ。 「字を間違えたら大変だから、丁寧に書けよ」 「どう大変なんですか?」 「資源が勿体無い」 竜崎は面白くないですと言わんばかりに目を逸らし、ノートを取り出して缶の蓋をした。 それから、ノートを乗せて開いてしばらくじっと考える。 よし!もう、確実だ。 おまえは、そのノートの所有者になった。 僕がそっと息を吐くのを待っていたかのように、竜崎の手がすばやく動き出した。 あっという間に名前を書いていく。 「りゅ、」 夜 神 冂 気づいても、声も出なかった。 素早く動いたつもりだが、自分の動きが妙にスローモーションで その間に、二画が書き加えられる。 夜 神 月 ゆっくりと、掲げるようにそのページをこちらに向ける。 「竜崎!!」 何故? 一体どうして? 僕は死ぬのか? 嘘だろ? リュークが何とかしてくれる? いや、一度書かれた名前は、絶対に、 「りゅ……ざき、なんで……」 「これが一番、平和的解決だと思いませんか?」 「そんな、」 まさか、即僕の名前を書くとは思わなかった……。 書くとしたら、キラ事件の全てを聞き出してからだろ? おまえは、真相が闇に埋もれてしまうのを我慢できるタイプじゃない。 違うのか? リュークに聞くつもりなのか? 無理だぞ?レムの例で知ってるだろ? 竜崎は、死因や死の前の行動を書き加える様子もない。 僕は、ポケットに手を入れて小さな鍵と携帯を取り出し、 森の闇の中、出来るだけ遠くに投げた。 夜中の神社で、僕の死体と手錠で繋がれて ワタリさんに助けを求める事も出来ず、 困り果てると良い。 ……それでも。 僕がその様を見ることはない。 溜飲なんか下がらない。 僕の命。 こんな終わり方、 あと五秒……四、三、 「馬鹿な……」
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