一盗二婢 2
一盗二婢 2








「夜神くん」


言いながら中に入ると、夜神はベッドに座り込んだまま、
引き攣った険しい顔をしていた。
夜着の上着のボタンが一つ外れている。
その顔は上気し、肌蹴た鎖骨の上に、小さな痣が出来ていた。


「今のは?」


声を掛けると、我に返ったように澄ました顔に戻り、ボタンを留める。


「何でもない」

「松田さんに襲われました?」

「……」


夜神は少し考えた後、私を見ないままに口を開いた。


「ちょっと、驚いただけだ」

「ちょっと?」

「ああ……押し倒されるって、思ったより怖くて不快なんだな。
  女性の気持ちが少し分かった」

「……」

「モニタで見てたんだろ?だから助けに来てくれたんだろ?」


ベッドに押し倒された瞬間と、私が訪問するまでの時間差。
それで私がモニタルームに居たと、推測されてしまったらしい。


「はい」

「デスノートに何かしたのか」


こんな時にもノートの心配か。
少し笑いそうになった。


「へえ……『殺人ノート』とは、言わないんですね?
 捜査本部の人はみんなそう呼んでいるのに」

「!……表紙に、書いてあっただろ?」

「はい。ただ、他の、ノートを見たばかりの人たちとは
 違う呼び方をするんだな、と思っただけで」

「下らない。おまえこそ話を逸らすなよ。
 勝手にあのノートに書いてないだろうな」

「出来ませんよ。金庫の鍵の一つは夜神局長が持っているじゃないですか。
 局長と私が揃わなければ、殺人ノートは出せません」

「ああ……ああ、そうだったな」


夜神は前髪をくしゃりと掴んだ。
やはり動揺が残っているようだ。


「悪い。ちょっと気が立ってる」

「無理もありません。なかなか経験する事ではありませんからね」

「……松田さん、僕に何をするつもりだったんだろう」

「……」


男に襲われた、という自覚はあるのに。
その行為についての知識はないのか。
最高学府に最高の成績で入学した男が。

数多の命を、ペン一本で奪った男が。

そう思うと、つい軽く噴き出してしまう。
夜神はまた険を含んだ目で私を睨んだ。


「何だよ」

「いえ……教えてあげましょうか?」

「何を」

「松田さんがしようとしていた事」


……後で思えば。

私は無意識に、自らの生命の危機を感じ取っていたのかも知れない。
それで自分の種を撒き散らしたい衝動に駆られていたのかも知れない。

だがその時はその自覚もなく、ただ年下の東洋人の……存外に
嗜虐心をそそる姿に、興味を持っただけだった。


「竜ざっ」


松田のようにもたもた手間取って失敗したりはしない。
不意打ちでズボンを下ろし、垂れ下がったそれをいきなり咥えると
夜神は小さな悲鳴を上げてパニックに陥ったようだった。


「そんな、やめ、」


夜神の指が、弱々しく私の髪を引っ張る。
だが、口で嫌がっている割に、それは驚くほど簡単に充血した。
睾丸を揉みながら、じゅる、と音を立てて吸うと、硬く張り詰める。
何だ、思ったより簡単だな。


「嫌、だ……竜崎……」


止めて欲しいのか、欲しくないのか、分からない、歯切れの悪い夜神の制止。
恐らく自分でも分かっていないのだろう。
今、こいつの中では様々な思いが渦巻いている筈だ。

私にこんな事をされる、嫌悪。
私に射精させられる、屈辱。

だが止めようにも、身体は既に反応していて。
感じているくせに、と私に思われるのも癪なのに違いない。

また、もし止める事が出来たとしても、この状態では
この後どんな顔をすれば良いのかも分からないのだろう。
いくら頭が良くても、精神面ではまだまだ経験不足だ。

結局夜神は、「んっ……ん……」と、声を殺しながら
萎えようと努力する事にしたようだった。
あまりにも悪手。
現実を認識した上で一旦受け入れてしまった以上、それは無駄な事だ。

だから態と卑猥な音を立てて舐めて吸って。


「出していいですよ」


一度だけ口を離してその顔を見上げながら言うと、
凄絶な目で睨まれた。

そんな目をされたら。

動きを早め、強く吸うと、夜神は


「駄目っ……」


その時ばかりは可愛い声を出して、私の口の中に放った。



はあ、はあ、と荒い息を吐きながら腰をひくつかせる夜神の、
中身を全て吸い終わってから口を離す。
掌に吐きだし、じっと観察してみたが、当然ながら精子が泳いでいる様などは
観察出来なかった。


「……」


夜神が困惑しているような顔でこちらを見るので、
謝りでもするかと思ったが。


「おまえ……慣れてるな。経験あるのか?」


やはり夜神は夜神だった。


「いえ。初めてです」

「嘘吐け!」

「そう思って貰っても差し支え有りません。
 でも私もアダルトヴィデオくらい見ます。いけませんか?」

「……」


夜神はまた戸惑ったような顔をすると、黙り込んだ。


「ああ、松田さんがしようとしていた事でしたね。
 松田さんは、フェラチオはしないかも知れませんが、コレはすると思います」


そう言いながら掌の精液を指につけ、横を向いた夜神の
尻の穴に塗る。
夜神はまた大きくびくついた。


「な……」

「動かないで下さいね?こんな所を怪我をさせたくありません」


言いながら指を入れると、彼は遂に弱音を吐いた。


「頼む……やめて……くれ……」


いきなり犯そうというのではない。
最初に十分快感を与えてやった。
そう思うから私も大胆になれるし、夜神も目立った抵抗が出来ないのだろう。
ここは先手必勝、私の作戦勝ちだ。


「今度は私の番です。
 慣れていませんから不手際もあるでしょうが、目を瞑って下さい」


静かに言うと、夜神は諦めたように瞼を閉じた。
本当に目を瞑るのか。
思わず浮かんだ笑みが、夜神に見られない事に安堵し、
少し残念にも思った。


「……とにかく、早く済ませてくれ」

「色気も何もないですね」


まあ、私も面倒がなくて良い。
少し慣らした後早速当てると、夜神は酷く驚いた様子だった。
嘘だとか何とか言っていたが、構わず動いていると静かになる。

その後は、開き直ったのか痛みに耐えているのか、最中ずっと
無表情のままだったが、そういう人形だと思えば悪くなかった。
私が中で射精すると


「終わったか?」


眉を顰めて這い、自ら抜いて、ベッドから降りる。
私の方に顔を向けないまま立ち上がり、


「……今夜だけだ」


囁くような擦れ声で言った。


「当たり前です。私だって容疑者と何度も寝る趣味はありません」


夜神は、私の記憶にある限り最初で最後だが
小さく舌打ちをして、バスルームに向かった。

毅然と歩いているつもりのようだったがその足取りは少しふらついていて、
こんな時にも負けず嫌いな彼を、滑稽に思ったり感心したりした。






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