一盗二婢 1 たっぷり濡らして勃起したペニスを、夜神の肛門に当てる。 夜神は諦めたように閉じていた目を、再び開いた。 「……え?」 「入れますね」 「ちょ、嘘、」 つぷりと先を挿すと、その身体が硬直した。 がたがたと、不随意に震え始める。 「どうかしました?」 「……い、」 「痛いですか?でも早く済ませろと言ったのはそちらです」 痙攣かどうか確かめる為に少し止まったが、どうやら単純に 震えているだけのようだった。 安心してじりじりと狭い道を分け進んでいくと、震えは一層激しくなる。 振動のお陰で具合が良いと思ってしまう自分は、 人として何かが欠けているのかも知れない。 だが震えは、奥まで入った所で少し収まった。 「全部入りました。狭いですね」 「……」 「夜神くん?」 「……」 「どうしました?」 目を見開いて硬直したまま、天井を凝視していた夜神は、 やっと呼吸を再開した。 じわりと眼球を動かして、私と視線を合わせる。 「……ま、さか、こんな、事を、するとは、思わなかった」 「男同士のセックスと言えばこんな物だと思いますが」 「……嘘、だろ?こんな、事、する奴、いるわけ、」 「いくら私でも、人類未踏の地に大事な部分で入り込む勇気はありません。 ついでに言うと、変態でもありません」 「変態だ……誰が何と言おうと、変態だ……」 消え入りそうな声で私を罵っていた夜神だが、 やがて震えが完全に止まった。 太さに馴染んで、痛みも止まった物だと解釈して少し腰を引くと、 安堵したように目を細める。 たが、もう一度押し入ると意図に気づいたのか、絶望に満ちた顔になった。 昨夜首都高の上でヨツバキラであった火口を追い詰めて。 いよいよキラ事件が新展開を迎える、と思った瞬間、殆ど尋問も出来ぬままに 死なれてしまった。 それもキラに殺されたとしか思えない死に方だ。 私の手元には「デスノート」しか残らなかった。 だが「死神」レムが見えるようになり、対話できるのは大きな収穫だった。 少し話して、人間とさほど変わらない知性や感覚を持っている事を知る。 即ち、死神にも守りたい物があり、嘘を吐いたりする事もあるという事。 そして人間と同じく、それが滲み出てしまうという事。 私は休憩も取らずにレムの尋問を続けていた。 「ページの端がちょっと切れてるんですが、この切れた部分の方に 名前を書いても死にますか?」 『…………さあ?私はそんな使い方した事がないからわからない』 答えまでの間が長い。 つまりこれは何らかの重大な事実を指し示しているのだ。 例えば、夜神か弥が過去にこれを使って何かをしたか、 あるいはこの死神自身が……。 「では死神はリンゴしか食べませんか?」 『そんな事はない。しかし死神界は……』 やはりこういう質問には即答だ。 その時、弥と面会していた夜神が戻ってきた。 「早いですね夜神くん」 火口が死に、疑いが晴れてからのコイツの行動も腑に落ちない。 何故か夜神月は、自由になってもここから外に出る事をしようとしない……。 いや、私から目を離さないようにしている? 今までとは逆に、監視されている気分だ……。 そんな折、夜神がトイレに立った隙に松田がすっと近づいてきた。 「竜崎。最近月くん何かおかしくないですか?」 「……おかしいと言えば最初からおかしいですけどね」 「何か……火口が死んでから緊張してるって言うか……楽しそうって言うか……」 「……」 この男も、やはり私と同じ違和感を感じていたか。 ……私の見た所、松田は夜神月に何か特別な感情を持っている。 中学生の頃から知っているらしいので、弟のように思っている? あるいは年下の優秀な男に対する、嫉妬と入り交じった歪んだ憧憬? それがどういった類いの物なのかは分からないが、 そのせいで普段片鱗も見せない洞察力が、奇跡的に発揮されている 可能性はあった。 「確かに。異様に捜査に入れ込んでいるようにも見えますが 一方弥を好きになったと言ったり……矛盾だらけです」 「ですよね!やっぱりそこかな? 確かにミサミサは可愛いし月くんの事が大好きだけど、 月くんの恋人としてはちょっと……っていうか、なんか、おかしいんだよね」 だとしても、今、私が感じている正体不明の焦燥。 それに似たものを松田も感じているとしたら、多少不快だが。 「松田さん。一度夜神くんにその気持ちをぶつけてみては?」 何かの拍子に、ボロを出すかも知れない……。 大した意味も無く言った言葉だが、松田は天井を仰いで何か考えている。 やがて小さく頷いた。 「そうしてみます」 私を監視しているように見えた夜神だが、さすがに寝室は別だった。 手錠を外したのに夜も当たり前のように同じ寝室に来たのだが、 「私に気があるんですか?」と訊いたら気まずそうに出て行った。 だが、本心では同じ部屋で寝たかったのだろう。 可能な限り私を監視するために。 その理由はやはり.……私が殺人ノートを勝手に使わぬように……? ならやはり、独断でノートを試してみるべきか。 いや、それでは今後の捜査本部、ひいては日本警察との信頼関係が……。 葛藤と正体不明の不安に悩まされ、眠れず真夜中になる。 私は密かに寝室を抜け出して、モニタルームに戻った。 殺人ノートが入った簡易金庫を確認した後、モニタの電源を入れ、 夜神の部屋の監視カメラを選択する。 『……から、僕は大丈夫です本当に』 『そうは見えないからこうして、』 運良く決定的な寝言でも言わないかと儚い望みに賭けてみただけだが こんな時間にいきなり流れ出した会話に驚いた。 どうも松田が夜神の部屋を訪問しているようだ。 困惑と迷惑を、故意に透けさせた夜神の笑顔。 それに気づかず何やらくどくどと言いつのる松田。 見て取れた状況はそれだけだが。 どうやら松田が昼間言った事を真に受けて、「気持ち」とやらをぶつけたらしい。 『ははは。まるで口説かれてる女の子みたいな気分です』 『月くん……!』 松田は突然、立ち上がって夜神の肩を掴んだ。 『僕は、ただ心配している訳じゃない!僕は、』 『松田さん?』 そのまま松田は馬鹿力で夜神の身体を押し、ベッドにぶつかった所で 二人ともマットレスの上に倒れ込む。 『松田さん!』 カメラ越しに見る、夜神の本気で驚愕した顔を見るとどうも不味い状況らしく、 私は仕方なく立ち上がった。 早足で夜神の部屋の前まで来て、中の物音に耳を澄ませる。 中で何かが動いている気配はあるが、さすがに会話は聞こえない。 「夜神くん。起きてますか? 夜中にすみません。ちょっと緊急で伺いたい事があって」 ドアホンを押して声を掛けると、中の音が止んだ。 やがてバタバタと慌ただしい気配があり、ドアが開く。 そして、ジャケットを抱えた松田が、私の顔を見ずに脇をすり抜けて 走り去って行った。
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