I spy 2 結局会話を官僚達の事に繋げられず、二十時ジャストに二人は大使館に到着した。 眼鏡カメラの映像を携帯端末に転送するよう設定していると、チャイムが鳴る。 入室を許すと、肩章を着けたプーミパットが頼んだ大荷物と共に入って来た。 「ありがとうございます。レック」 「遅くなってすみません。 こちら、サイズが合わなかったらすぐに交換して来るので着てみて下さい」 Tシャツとジーンズを脱ぎ、荷物のカバーを外すと真っ黒なタキシードが現れる。 身に着ける間、プーミパットは棒立ちで私を見つめていた。 「どうです?」 「よく……お似合いです」 「サイズの話なんですが」 「ああ、ぴったりですね。Lはタイ人のように細身ですから」 「これから行くパーティでは、間違っても私をLなどと呼ばないように。 ラージでお願いできますか?」 「は、はい!了解であります!」 さりげなく同伴を申しつけると、プーミパットは背筋を伸ばして敬礼をした。 ますます私がLだと思ったのだろうな。 まあ構わないが。 「しかし、窮屈ですね……」 「あの……失礼ですが、もう少し背筋を伸ばされた方が」 「仕方ないですね……すみません。タイを結んで貰えます?」 「はい?え?」 「ボウタイ。自分で締められないんで」 「は……」 プーミパットは恐る恐る蝶ネクタイのパッケージを取り、捧げ持つ。 「そう言えば、今日はもうお一方は?」 「ああ、彼はジャンと言います。既に別口で潜入しています。 向こうで会っても、知らない振りをしていて下さい」 「さすがですね!分かりました」 言いながら私の前に立ち、立て襟を整えた。 「すみません……もう少し顔を上げて頂いても?」 「はい」 プーミパットは私の首の後ろにネクタイを通す。 「そう言えば、昨日はパーティを断りそうだったのに、突然行く気になったのは?」 「まあ……捜査する必要が出て来た、という事です」 「そうですか!何かお手伝い出来る事は?」 「ありません」 「……」 にべもなく断ったせいか、気まずげにタイを結び始めた。 シュ、シュ、と絹の滑る音が身体に響く。 そして、最後の輪に通す時。 「……このまま締めたら、私英雄ですね」 プーミパットがぽつりと呟いた。 「聞き捨てなりませんね」 「あ……いや!違います!何言ってるんだ私は、」 ぱっと手を離して、あたふたと指を動かす。 「本音が出ました?あなたは私が世界の切り札、Lだと思っている。 そのLをいつでも殺せる立場に一時的にでも立った事に、酔ったんですね」 「そんな、事は、」 「分かってます。あなたは本気でそんな事をしたりしない」 「その……本当に……あなたの首があまりにも細くて。 私でも簡単に折れるのではないかと……不埒な事を考えてしまいました」 「はぁ。折れるかも知れませんね。 しかし、こう見えてあなたより強い、という可能性も考慮しておいて下さい」 「……了解です」 プーミパットは少し肩を落とした後、気を取り直したように再びタイに手を掛けた。 無言でややきつめに締められたような気がしたので、無言で緩めた。
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