if 5 しばらく放置されて、いつになくぼんやりとしてしまったが、しゃきんと音がして意識が現実に戻る。 Lが、壁から取り外した大振りな裁ち鋏をしゃきしゃきと鳴らしていた。 「今度は散髪屋さんか?」 歯医者や針責めに比べたら随分温いな。 勿論勝手に髪を切られるのは嫌だが、別に丸刈りにして貰っても構わない。 1年も経たずに完全に元通りだ。 だが、Lは答えずにニヤリと笑うと、僕の制服のシャツの裾を刃で挟んだ。 「何……何、するんだ」 「動くなよ」 じゃきん。 合わせ目でない所が、裂けたように切れる。 「ひっ、」 次はネクタイに鋏を入れて。 じゃきん。 じゃき、じゃき、と、Lは病的な正確さで楽しげに鋏を使い続け。 たっぷり三十分程掛けて、シャツもパンツも下着も細かく切り刻んでしまった。 それからヘアカットを終えた美容師のように、少し身体を引いて右から左から眺める。 やがて正面に戻って満足そうに頷いた。 「キラの、ストリップだな」 まるで紙吹雪のように、僕の足下には小さな布きれが積もっている。 そして僕は、ただ靴下と靴だけを履いた素っ裸にされていた。 「金取るよ」 「払いたくなる程きれいな身体だ」 「……この、ホモ野郎!」 実際、舐めるような視線が気持ち悪い。 男を裸にして、どうするつもりなんだ? 僕の股間の辺りを見ながら、鋏をしゃき、と鳴らすのが、本気だとは思わないが悪趣味だと思う。 「ホモ野郎、ね。 私がゲイかどうかはともかく、お前みたいに負けん気の強いきれいな男を痛めつけるのは楽しいよ」 「!」 「さて。次はどうしようかな?」 Lは床に鋏を置いて、近付いて来る。 それから、僕を縛っていたロープを外し始めたので一瞬心が弾んでしまったが解放される筈もないだろう。 だが瞬間的にでも両手が自由になるのは大きなチャンスだ。 隙を突いてLの足を払って転がし、壁に掛かった斧を取ってLを牽制しつつ、窓を破るか……。 いや、この男の事だからその位は予想しているな、もっと予想外の動きをしなければ。 こうなったら、一発でしばらくは動けない程のダメージを与えるしかない。 奥歯の事もあるし、この服もある、最悪殺してしまっても正当防衛と見なされるだろう。 僕は過去の判例を反芻しながら、Lの頭部辺りを見る振りをして、目の端で床に置かれた鋏を捉えていた。 ……だが、結局手が自由になる機会は訪れなかった。 Lはロープを外しながら、僕の手を折れそうになる程捻り上げたのだ。 「くっ……!」 俯いた、口の端から涎が垂れてしまう。 糸を引いて床に落ちた唾液には、まだ多量の血液が混じっていた。 「や、め……」 「悪いね。刺されては堪らないからな」 やはり、思考を読まれたか……。 鋏に視線を動かしたつもりもないのに。 それから僕を跪かせて座面に肘を突かせ、椅子を抱かせるように縛り直した。 今まで椅子に守られて残っていた背中や尻の布も床に落ちる。 自分に見えない部分がLに曝され、何か心許ない。 だがそれよりも衝撃だったのは、先程まで僕の背後だった壁にも、扉らしき物が一切見当たらない事だ。 本当に、出入り口がないのか? 僕達は、あの窓を枠ごと外して入って来たという事なのか。 そんな衝撃があれば、目が覚めない筈はないと思うのだが。 Lはまた機嫌良くカノンを口ずさんでいた。 「何を、するつもりだ……」 「“ホモ野郎”で思いついた」 思いがけない程近くから、耳元で囁かれてぞわりと背筋が寒くなる。 それからLは一旦背後の壁に戻り、ゆっくりと歩きながら何かを集めているようだった。 “ホモ野郎”で思いついたって……どう考えても楽観的な予測が出来ない。 脂汗を垂らしながら待っていると、足音は戻って来て椅子のすぐ横にがちゃり、と何かの束が置かれた。 横目で見ると、ペン、錐、金槌、ドライバー、ナイフ、斧……脇差し?模擬刀? 「な……っ」 「どれが良い?」 まさか……。 まさか。 「“ホモ野郎”が、おまえの尻の中を開発してやるよ。 どれから行く?」 “柄”の方を使うのか?! 「やめて、くれ……」 「希望がないのなら、こちらで決める」 Lは楽しげに顔を逸らして手探りで道具を触る。 最初にその長い指先に触れた、ゴツゴツした太い柄のナイフを取り上げた時、僕は遂に悲鳴を上げた。 「ペンで!ペンで……頼む」 「そう。意外と控えめなんだな」 もう、逃げられないのか……こんな屈辱から。 終わったら、絶対に殺してやる! キラに殺されたと本人に分かり、ひと思いに死んだ方がマシだったと思わずにいられないような方法で。 あの大きな手で、尻を掴まれる。 冷たい指だ。 それから肛門にペンの先が当たり。 特に抵抗もなくつるりと入って来た。 痛くはないが、中でぐりぐりと動かされると気持ち悪い……。 だがすぐに、Lは抜いてくれた。 「次は?」 「つ、次?」 一本じゃないのか? 僕が耐え続けたら、ナイフの柄や模造刀のあの太い鞘まで入れるつもりなのか? 嫌な予感は当たる。 これまでの人生、常に最悪を想定し、そうならないように動いてきたので本当に嫌な目に合った事はないのだが。 今は動けないのでどうしようもない。 太いドライバのグリップを入れられた時にはさすがに目の端から涙が零れた。 「痛いか?」 Lは必ず、これを聞く。 僕が痛いと答えればそのままにし、痛くなくなったと答えれば抜き差しを始める。 やがて飽きれば次の“柄”に変わるのだが……。 「痛い……」 今回はそう言ったのに、強引に抜き差しをし始めた。 「痛いって……言ってるのに」 「忘れたのか?これは拷問だよ」 忘れているのはそちらだろう! 何度も何度も同じ質問を繰り返すのが訊問の、拷問のセオリーなのに。 まるでそれを忘れたかのように、ただ僕を苛めるのを楽しんでいるとしか思えない。 「変態……!」 「変態……私が?」 「どう考えたって、頭おかしいだろ!」 「そう思う相手にこれほど痛めつけられても自白しないお前も大概だと思わないか?」 「だから僕は、」 キラじゃない!と言いかけた時に、ぐいっ、と突かれて思わず息が止まる。 なんだ……今の……。 腹の底から殴られたような……。 いや……。 背後でLがふっ、と笑い、今度はゆっくりとドライバを回転させる。 中で柄が回って、微妙な刺激に、先程殴られたように思った場所が。 ……切ない。 としか言えない、涙が出そうな感覚。 考えたくないが、もしかして、これが。 「お前の前立腺の感じる場所、見つけた」 「嫌だ、やめ、」 「と言っても勃起してるよ?キラ」 最、悪、だ……。 それから僕の頭の中には、「殺す」の一言しか思い浮かばなかった。 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……。 それだけを思いながら、色々な道具に貫かれる。 レイプされるよりはマシなのか。 いや、いずれにせよこいつに犯される羽目になるのか……。 模造刀の鞘を奥まで入れられて吐きそうになった後、もう一度ナイフの柄を入れられた瞬間に、僕は押し出されるように吐精していた。
|