男前Lお題---薬 3 「そう。じゃあ、本当の事を言うよ」 「はい」 「おまえの最初の推測が当たってた。 それは媚薬と、健康な人間が飲んだら毒になる薬だ。 種類は忘れたがどちらも当時は合法ドラッグだったと思う」 「……」 「だから、おまえが媚薬を選んで飲めば、今夜は楽しくなるかも知れない。 でも、どちらにせよ片方が毒薬を飲んだら後味の悪い事になる」 「なるほど」 「それで、さっき少し困ってしまったんだ」 「私が毒薬を選んで飲めば夜神くんにとってはベストな訳ですね?」 「いや、さすがにその時は止めるよ」 「本当でしょうか」 我ながら、人の生き死にの話だとは思えない口調だが こいつ相手だとそうなってしまう。 それともLも、本当に毒薬だと信じてはいないのだろうか。 「私が毒薬を飲みそうになったら止めてくれるというのが本当なら」 「本当だよ」 「意地でも毒薬を選ばざるを得ませんね」 「媚薬を飲むのは嫌か?」 「当たり前です。 恐らく血行を良くして体温を高める程度の物だとは思いますが 媚薬だの惚れ薬だの催淫剤だのはプラシーボ効果もバカになりませんし」 「……え」 「つまり、私があなたに惚れてしまう可能性もあるという事です」 「それは……困るね。お互いに」 「でしょう?」 話を合わせながら、思わず笑い出してしまう。 勿論冗談だろうが。 竜崎が夜神月に、というよりLがキラに惚れるだなんてお笑いだ。 「じゃなくても万が一、ベッドの上で私だけ興奮するなんて事になったら」 「それが楽しみなんだけどね」 「冗談ではありません」 Lは心底嫌そうに顔を顰め、不意に立ち上がってテーブルを避け こちらの方へ来た。 「何……」 上半身裸のまま、僕の椅子の背もたれと肘掛を掴んで逃げ場を塞ぎ 覆いかぶさってくる。 思わずぎょっとして体を硬くしていると、耳や首の辺りに顔を近づけて くんくんと鼻を鳴らした。 まるで犬のようだ。 「……嘘の匂い、した?」 「……」 Lは答えず、近づいて来た時と同じ唐突さで離れて元のポジションに戻った。 しばらく人差し指を咥えて首を傾げていたと思うと、 ひょい、と青い方のパックを取り上げる。 「これです」 「え?」 青を……選んだ……というのか? 何だその何気なさは。 「青を選んだ根拠は?」 「ありません」 「それってルール違反じゃないか?」 はっきりと定めた訳ではないが、これは推理力を試すゲームだと言った。 論理も何もなく、勘で選ぶのは反則だろう。 「まあそうなんですが。 そうしろと囁くんですよ……私のゴーストが」 「……」 「というのは半分冗談ですが、私、どんな事件を推理する時も 結構勘を大事にするんです」 「ああ、らしいね。お陰でこっちは大迷惑だけど」 「ええ、すみません。何の証拠もありませんが、私はあなたがキラだという 直感から離れる事が出来ません」 「酷いな」 言いながらも、Lの「勘」には舌を巻く。 64個もカメラを仕掛けて、ほぼ衆人環視状態で僕には不可能な殺人が起きたら 絶対僕は無関係と考えるだろう普通。 このまま、青のタブレットを抓んだままどうするのだろう、 勘に頼ったのは敗北宣言だろうか……。 と見ていると、Lは手品師めいた仕草で指先を動かし、 タブレットを指の間で器用に回し始めた。 「お遊びはこの辺にしておきましょう。 私の、本当の考えを今から話します」 「……」 「まず、あなたは最初にこれを『タブレット』と言った。 そこから少し違和感を感じたんです」 「……」 僕は、ほくそ笑む。 さすがLだ。 全く、僕が狙った通りにきれいに誘導されてくれるんだから。
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