男前Lお題---薬 4
男前Lお題---薬 4








「あなたの今までの語彙から考えれば、『錠剤』と言う方が自然です。
 もしこれが本当に薬ならば」

「……続けてくれ」

「それに、私が嘘を言って良いと言った後、媚薬だの毒薬だのと
 言っていたあなたからは、嘘の匂いがしました」

「まさか」

「本当です。では、『錠剤』でないタブレットは何か?
 色々ありますが、この見た目なら、『錠菓』でしょうね。
 色以外全く違いがないのも、味違いと思えば納得行きます」


ああ。そう推理するだろうな、お前なら。
僕がキラだという第一印象から離れられないように、最初に「タブレット」と
言った事に気付いた、その一点から離れられない。

それが間違いだったら、僕のミスディレクションだったら、全てが崩れるのに。

どうせだから、殺す前にお前のプライドを粉々にしてやるよ。
しかもその上で、最後の最後にやはり僕がキラだったと教えてやる。


「……なるほど。で、どうして青を選んだんだ?」

「菓子なのにあなたが食べるのを嫌ったと言う事は、さっき言ったジョークグッズ、
 とんでもなく不味いお菓子だという可能性もある」

「……」

「暖色は食欲を増進させますから、それが罠だと考えると
 青の方が安全である確率が高いです」

「論理的だね」


Lの、無表情ながらもどこか得意げな顔。
僕が、最初からこれが菓子だと誤解させようとしていた事も知らないで。

目の前の顔が屈辱に歪む様をさんざん想像して楽しんだ後、
真実を言おうと口を開いた所で、Lが突然パッケージを破った。


「以上が私の推理です。私、お菓子なら何でも大好きです」


そう言って、止める間もなく青い錠剤を口に放り込む。


「わっ!バカ!出せ!」


僕は思わず飛び掛かり、Lの髪を掴んで口に指を突っ込んだ。


「飲んだのか?バカじゃないのか?どうなっても知らないぞ?」


口の中に、既に錠剤はない。
変な味がしただろうに。
死にはしないだろうが、体を壊しても知らないぞ?


「あれは、お菓子なんかじゃない!ただの乾燥剤だ!」

「……」

「青いのはまだ湿気を吸っていない、赤いのはもう湿気を吸っていて
 交換時期って印だ。ほら」


ポケットを探り、青紫と赤紫、変化途中の乾燥剤を取り出して見せる。


「全く!自分の推理に自信を持ちすぎだ。
 わけの分からない物をいきなり口に入れるなよ。
 ちょっと、PCを起ち上げて乾燥剤を誤飲した時の処置を……」

「してません」

「え?」


Lは、僕の腕の中でニッと笑い、目の前で手を広げた。
その指の間には、青い……Lの汗を吸って一部赤くなりかかった錠剤が。


「わけの分からない物をいきなり口に入れたりしませんよ。
 あなたが本当に止めてくれるか、ちょっと試してしまいました」

「……」


僕は、愕然とした顔をしないように気をつけながら、ゆっくりとLの体を
離した。


「……でも、菓子だと思ったんだろ?」

「いいえ。これ、お母さんが入れたんですよね?」

「ああ」

「実はこの乾燥剤、洋服用じゃなくて食品用なんです。
 私、日本のお菓子には詳しいですから実は見慣れてます」


マジか……!
最初から、分かっていて僕を引っ掛けて遊んだって言うのか。


「お母さんはなかなか節約家というかユニークな方ですがともかく。
 未使用状態が青ですから、青を選んだ私、勝ちですよね?」

「……」


まあそれは、赤を選んだとしても言い様で何とでもなると
反論する事はできるが。

最初から知っていたのなら、僕に勝ち目はなかったのだろう。
絶対に負ける筈がないと思っていたのに、
最初からLの罠に填まっていたとは。


「ああ……僕の負けだ」


無理矢理口の両端を上げて言うと、Lもまた、目を見開いたまま
ニイッと笑顔を作った。


「そうあっさり認めてくれると有難いです。
 それにしても夜神くん、さっきは本当に私を心配してくれましたね?」

「……別に。バカじゃないのかと思っただけだ」

「嘘ですね。さっきの夜神くんからは嘘の匂いがしませんでした」

「馬鹿馬鹿しい。それじゃ僕は普段は嘘の匂いをぷんぷんさせてる
 みたいじゃないか」

「ええ。あなたからは殆ど嘘の匂いしかしません」

「……」


また、僕を怒らせようとしている。
怒らせて、何か情報を得ようとしている……。


「キラだという事も、あっさり認めてくれると良いんですけどね」

「僕は自分が負けたら潔く認める方だよ。
 そちらこそ、僕がキラじゃない事を早く認めてくれ」

「今夜もう一つ分かった事があります」


無視かよ。


「夜神くんは意外と、信じやすい所もあるんですね」

「何の話だ?」

「私はあなたの一言一句を疑っているのに、あなたはあっさり
 私の嘘を信じる」


思わず頬が引き攣った。
嘘……?

一体どこだ、今日はLからの情報は殆どなかった筈だが……。
つい今しがたの事か?

……Lが、これが乾燥剤だと知っていた、というのが嘘なのか?


菓子だという仮定で飲む振りをした。
その事に対する僕のリアクションから真実を割り出し、
最初から知っていた振りをした……。
という事か?


「……」


そうだとしても違っても、問い詰めても分からないだろう。
Lが本当の事を言うか嘘を吐くか分からない以上、どう答えようが、
真相は藪の中、だ。
それ以前に、こんな下らない事でそんなみっともない真似はしたくない。


僕は言うべき事もなく、仕方なく肩をすくめる。
Lはそれを見て満足げな顔をすると、ポケットからごそごそと何かを取り出した。


「実はこれ。今日届いて、さっき部屋で取ってきたんですよ」


その手の中には、注射器を平たく潰したようなパッケージ。
中にはピンク色のジェル状の何か。


「勝ったご褒美というのも何ですが。
 今度はあなたが、これが何か当てて下さい」

「……薬?」

「それも含めて。当てられたら使わせて上げます。
 ……外したら、私が使わせて頂きます」


人差し指と親指で抓んで、顔の横で揺らしながら
Lは自分の親指を舌先でちろちろと舐めて見せた。





--了--





※こんなオチでごめんなさい。
 Lって何となく、負けた振りをして相手から情報を引き出し、
 最後にひっくり返す、みたいなのが好きそう。ああ、映画の影響か。

 一部Lが少佐になっていますが意味はありません。






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