男前Lお題---コスチュームプレイ 1 「一緒にいる理由として」男と……Lと、セックスをしてしまった翌日。 Lは一日普通にしていたが、よく見れば一度も椅子に 腰を下ろしていなかった。 ずっと座面にしゃがんだまま……昨日まではどうだっただろうと思い返すが 偶には普通に座っていたような気がする。 やはり尻が痛いのかと思うと少し可笑しかったが、 手錠で繋がれていた時と同様に毎回トイレまで着いて来るのには参った。 勿論、シャワーも一緒だ。 「夜神くん。ちょっと服貸して下さいね?」 カラスの行水と言うか、先に手早く洗い終わったLが僕に声を掛ける。 「……え。どうして?」 「服をベッドルームに忘れて来ました」 「裸で来たよな。裸で取りに行ったら?」 「ドアに鍵をかけ忘れたんです。 裸で戻ってもし誰か来ていたら気まずいです」 言いながら、良いとも言っていないのに勝手に僕の縞のシャツを羽織り コットンパンツを手に取る。 まるで僕がNOと言う事など全く想定していないかのように。 事実、何故僕が質問を続けるのか訝しむような顔をしていた。 「いきなりズボン穿くなよ!パンツ穿けよ!」 「アンダーパンツの事ですか?お借りしてもいいんですか?」 「パンツもないの?」 「ありません」 言いながら、僕の下着を躊躇いなく取り、足を通す。 ……洗ってあるとは言え、抵抗はないのだろうか……。 などと思いながらも、もうすぐ殺す相手なのに、何をどうでもいい事 気にしているのだろう、とも思う。 「竜崎……ちょっと馴れ馴れしすぎないか?」 「何がですか?」 「他人と服の貸し借りをするなんて、どろんこ遊びをする年齢の子どもか 恋人同士くらいだよ。 下着に到っては、全年齢であり得ない」 「そうですか」 って。 全く、これまでどんな人間関係を築いてきたんだ。 いや、全く築いて来なかったのか? 「そうかも知れませんね。 私だって以前は夜神くんの服を借りるなんて考えた事もなかった。 肉体関係を持つと他人と自分との境界線が曖昧になるのかも知れません」 「……」 もしかして、全て計算か? 僕を誘ったのも、服を忘れたのも。 これはもしかして、情に訴えかけようとされているのだろうか。 「……もし僕がキラだったとしても、そんな事でLを狙うのを やめないと思うけど」 「ああ、そんなに深読みしないで下さい。 服を忘れた事がなかったから考えた事がありませんでしたが 忘れたら普通に借りたと思います。つまり特に気にしていません」 「……」 おちょくられているんだろうか……。 苛々している間にLは着終わり、出て行った。 と思うと、すぐに自分の服を抱えて戻って来た。 「早いな」 「ですから、あなたから目を離したくありませんから。 携帯電話をチェックしたんじゃないかとか疑われるのも嫌ですし」 「別に。ロックも掛けてないし見ていいよ」 携帯に証拠を残すようなバカな真似なんかするもんか。 そんな事をするとすれば、Lの写真を撮ってミサに送る時だけだ。 それにしても、襟のある服を着たLは新鮮だった。 タイトなラインのシャツは、背中を丸めているので全然似合わないが。 僕の視線に気付いたのか、Lが肩を竦める。 「サイズは誂えたようにぴったりです」 「そう。同じくらいの体格なんだな」 「じゃ、脱ぎますね」 「待てよ」 窮屈そうな顔をしたLを、もう少し見たいと思ってしまった。 いつもあんなに緩い服装をしているのは、それなりに理由があるのだろう。 眉を顰めたLを尻目に、僕もバスタオルでゆっくりと体を拭く。 「猫背だからきついんだよ。僕みたいに背筋を伸ばしてみろよ」 「……」 なんでそんな事を、と睨んでくるかと思ったが、Lは意外にも 目を見開いたまま面白そうに笑い、しゃきっと背筋を伸ばした。 始めて見たが、視線の高さが僕と同じくらいになる。 自分より背が低いと思っていたので、少し驚いた。 「『ボクはキラじゃない。何度言ったら分かるんだ』」 「……それ、僕の真似か?」 「はい。似てませんか?」 確かに、いつもの抑揚のない喋り方ではなく、確実に相手に伝わるよう 心がけている僕の話し方に似ている。 だが、 「そんなにアナウンサーみたいな喋り方してる?」 「はい。学校では大人が思い浮かべる若者のような喋り方、家では 中学生日記みたいな喋り方、捜査本部ではやや砕けたアナウンサーです」 腹立たしいような面白いような気分になって、僕もLの服を身に着ける。 見た目より更に動きやすく、肌触りが柔らかかった。 背を丸め、親指を唇に当ててLを見上げ、 「『これならもしワタシが死んでも、ヤガミくんがLの名を継いでいけるかも 知れません』」 敢えて棒読みで言う。 このセリフをチョイスしたのは、悪ふざけ半分、挑発半分だが Lは体を折って震えた。 どうもセリフではなく物真似に反応して、無音で笑っているらしい。 「夜神……くんが、こんなに剽軽な人だとは知りませんでした……」 「おまえもね」 Lが、こんなに笑ったのは初めてかも知れない。 少なくとも僕は見た事なかったから、かなり長期間なかった筈だ。 そして、きっと生涯最後になるだろう。
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