男前Lマニアックお題---「縛り 4」 数呼吸休んでからティッシュを取り、自分の茎を拭う。 下着に収め、パンツのファスナーを上げると、 今しがた外出から戻ったかのような装いになって、何となく落ち着いた。 対するLも、表情だけは涼しそうに天井を眺めている。 裸のまま横たわって胸に精液を散らせ、腹の中に僕の精液を溜めたままの癖に。 状況を忘れていそうなので、良いザマだなと言ってやろうと口を開くと その前に目だけでぎょろりと睨まれたので、黙って手錠を外した。 「バスルーム使います」 「あ、ちょっと待って。僕も手を洗いたい」 「しっかり消毒する事をお勧めします。後で」 「ああ……」 起き上がったLが腹を押さえたのは、トイレに急用だというジェスチャーなのだろう。 まあ……浣腸液を入れたようなものだし。 などと淡々と考えられるのはやはり「出してしまったら用はない」という 男の性なのだろうか。 Lはベッドから降りる時、一瞬痛みに堪えるような顔で動きを止めたが、 それ以外は普段どおりのような様子だった。 いつも通り背を丸め、足を引きずってバスルームに向かう。 シャワーの音がした後出てきて、また飄々と脱いだ服を身に着ける。 着衣のまま行為した事によるアドバンテージは、直ぐに埋められた。 まるで、セックスなんかなかったかのように。 「夜神くん。答えませんでしたよね?」 「え。何が?」 不意に言われて、思わず間抜けに聞き返す。 「夜神くんの負けですね」 「だから何がだよ」 「私の様子を見て、私が感じていると分かりませんか?と。 童貞なのかと質問しました」 ああ……無かった事にするつもりは、ないんだ。 このタイミングでいきなり射精直前の話って、心臓が強いな。 「……それは」 「別に答えはどちらでも良いですが、答えなかったので 夜神くんの負けです」 「おまえね……」 真剣な顔で言っているのが、余計に可笑しかった。 何だコイツ。子どもか? 「僕にイかされたからって、負けず嫌いを言うなよ」 「射精はしましたが、乱れたのは質問を紛れ込ませる為の演技です」 「ああ、そう」 嘘を吐け! 僕には分かる。あの時、Lの体は完全に開いた。 身も心も、僕のペニスを待ち望んでいた。 まあ、もうすぐ殺す相手なんだから、どうでもいいが。 「……いいよ。負けでも」 僕の投げやりな答えにLはどこか不満そうだったが、これ以上言い合いをしても 不毛だと分かるのだろう、何も言わなかった。 膝を抱え、手首をさすりながら話を変える。 「ゲームが終わる前に、もう一つ聞きたい事があります」 「今度は、何」 「何故、最後だけ、私の事を『L』と呼んだのですか?」 「だっておまえはLだろ?本名教えてくれるの?」 「いえ。いつもは必ず『竜崎』と呼んでいたじゃないですか」 そう言えば……。 と思ったが、もう答える義理もない。 黙っていると、Lは指を咥えてにやりと笑った。 「答えられないんですか?」 「別に。大した意味はない」 「そうでしょうか?私が代わりに答えましょうか?」 今度は僕が眉を顰める番だ。 「それは、『あなた』が心の中で常に私を『L』と呼んでいるからです。 さっきは切羽詰ってそれが表に出てしまっただけです」 「……」 「でも、記憶と取り戻す前の『月くん』なら、心の中でも 私を『竜崎』と呼んでくれていた筈なんです」 L……。 「つまり、今の『あなた』にとっては、私は同期生の『流河』でもなく 友人の『竜崎』でもない。 ……『キラ』を追い詰める、憎むべき、殺すべき探偵、『L』なんです」 ……さすがだな。 その通りだよ、L。 本当はおまえを、流河だの竜崎だの、血が流れていそうな名前で呼びたくない。 おまえは、L。 ただのアルファベット。 ただの記号。 そうあるべきだ。 そうしたら消しゴム一擦りで消してやる。 この世から。 「……見当違いだよ、竜崎。本当に、そんな意味なんかない。 多分、『世界の切り札』の中に出せる事が、嬉しかったんじゃないかな」 「……」 「僕も男だからね。『世界』を征服出来る事には、興奮するよ」 「私、征服されましたか……」 「征服」の定義は何だとでも聞いてきそうな不満げな顔。 自分で抱けと言い出した癖に。 だがこの時初めて僕は、Lを、真に支配したいと、征服したいと思った。 「僕からも最後の質問だ。初めてのセックスの感想は?」 Lは目をくるりと上に向けて、考える振りをした。 「そうですね……仮に科学の力であなたと私の子を作る事が出来たとして」 「うん」 「それが優秀な頭脳の持ち主かどうかは分かりませんが とてつもない変態なのは間違いないと思います」 「自分も省みて?」 「はい。Lを抱けるキラも、キラで射精出来るLも、かなり変質者的です」 それは、そうかも知れないな。 ダブルベッドで何十日も共寝してきたが、まさかこうなるとは思いも寄らなかった。 勿論、記憶を手放す前なら尚更だ。 「僕はキラじゃないけど。じゃあ、こうなった今、竜崎にとってセックスとは?」 ベッドの上で体を丸めてがりがりと爪を齧りながら、Lはまたしばらく黙った。 「……やはり意味なんかありません。私の人生に必要ないものです」 「そうなんだ?なら、なかった事にしようか」 「……それも困ります。明日も……、」 「明日も、何?」 Lは益々猛烈に爪を齧った後、深爪になったのか少し顔を顰める。 そして何故かにじり寄って来て僕の手を掴み、驚いた事に おもむろに僕の親指の爪を齧り始めた。 「ちょっ、何するんだ。やめろよ気持ち悪い!」 「明日も……抱いて下さい」 「え?」 「あなたとベッドを共にしている間は、私は殺される事はありません。 途切れた時が、私の死に時ですから」 「……とんだアラビアンナイトだな」 「千と一夜、体を捧げたら助けてくれますか?」 「いやいや……」 冗談じゃない。 三年近くも悠長に待ってなんかいられない。 というかそう何度も男を抱く気なんかない。 「でも、キラでないのなら断る理由がありませんよね?」 「……」 「気持ちよくなかったとは、言わせませんよ?」 言った後、再び僕の指を咥え、爪に歯を立てたLの目は。 仕草とは裏腹に、この期に及んでまだ僕の内のキラを暴こうとしていた。 --了-- ※男前受けを目指しました……。
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