男前Lマニアックお題---「縛り 1」
男前Lマニアックお題---「縛り 1」








もう何時間、寝ていないだろう。

火口を確保して、殺して、病院に搬送して、死神に尋問をして
13日のルールで容疑を晴らして、手錠を外して……。
デスノートの保管について議論して、他にノートがある可能性について
議論して、火口が殺した人間を確定して……。

現実とは思えない急展開に捜査本部ではアドレナリンが渦巻いていたが
流石に翌晩ともなると疲れが一気に押し寄せ、作業効率が落ちて来た。


「計算してみたら、不眠新記録でした……」

「松田……、おまえ普段寝すぎなんじゃないか?」


空気が、緩んできている。
父が遂に「少し休もう」と提案し、一人涼しい顔をしていたLも
周囲を見回して、その方が良いと判断したようだった。





「僕の部屋は、ミサの下のフロアでいいんだよな?」

「……」

「竜崎!」


一旦Lと暮らした部屋に戻り、こまごまとした荷物をまとめながら
個室について尋ねたが、Lは捗捗しい返事をしなかった。


「夜神くん」

「何」

「……今晩は、この部屋で休んでは?」

「断る。僕にはプライバシーを守る権利がある」


手錠は外れたんだ。
もうすぐ殺す相手。
油断をしたら一気に足元を掬われかねない相手。
出来れば一瞬たりとも一緒に居たくない。


「手錠を外した、というのはそういう事だろ?」

「そうなんですけどね」

「確かに僕は疲れているけれど、部屋を移るくらいの余力はある。
 今夜もおまえと一緒にいる理由がないだろう?」

「そうなんですけどね……」


Lは指を咥えたまま、しばらくじっと僕を見た後
ぽつりと口を開いた。


「夜神くん。セックス、しませんか?」

「……」


……いやいや。
誰と?誰が?

訊くのも馬鹿らしいし、余計な事を言ったら揚げ足を取られるかも知れない。
笑う気力もなかったので、無言でただ首を横に振った。


「どうしてですか?」

「どうしてって。男に興味ないし、ましてや竜崎って」

「確かにイケメンという奴ではないですが、これでもトップと言われています」

「そうだけど」

「男として、『世界の切り札』を、『影の支配者』を支配してみたいと、思いませんか?」

「……」


面白い事を言う、と笑い飛ばしてしまえばよかったのだが
僕はやはり笑えなかった。


「私を抱きませんか、という隠喩です」

「分かるけど……という事は、おまえが女役やってくれるんだ?」

「不本意ですが、逆だと夜神くん逃げ出してしまいそうですし」

「逃げるよそれは。でも、何故そこまでして……」


僕が荷物の整理をする手を止めたのに、安心したのだろう。
ソファの座面にしゃがんでいたLは、腰を下ろして背もたれ凭れた。


「正直に言います。
 私は、あなたにキラの記憶と殺人手段が戻ったと考えています。
 どのタイミングだったかは分かりませんが」

「竜崎、それは……」


今更だろう、証拠もないのに人を貶めるような事を言うな、と
詰ろうとしたが、手で制止された。


「手錠で繋がった時から、覚悟はしてたんですよ。
 あなたに容疑を認めさせられないままにこの手錠を外す事があったら、
 その時は私の敗北……即ち死が、ほぼ確定する時だと」

「……考えすぎだよ」

「そうでしょうか?私の死へのカウントダウンはもう始まっているのでは?」

「さあね。そうだとしても、僕には関係のない話だ」


Lの勘の良さというか、材料もないのに状況を洞察する力に舌を巻く。

確かに僕は、監視が解ける時には容疑は晴れ、レムかミサを使って
Lを消せる状況になるよう計画を立てた。

流石L。

お前の考え通りだよ。
お前はもう、終わっている。


「まあ、あなたは否定しても、私は自分の命の危機だと思っているんですから
 真剣にもなりますよ」

「……」

「勿論、あなたを拘束する権利がなくなったのは分かっています」


竜崎は突然「が!」と声を張って、ソファから足を下ろした。


「ぶっちゃけますと、あなたが私の写真を撮ったら気付く距離、
 それをどこかに転送しようとしたら阻止出来る距離を保ちたいんです」

「それでセックス?一緒にいる理由として?」

「はい」

「形振り構わず、だな」

「ええ。形振り構わず、です。自分の体くらい使いますよ」


言いながら冗談のようにシャツを捲り上げるLの、目は真剣で。
大した難儀でもないのにその願いを聞き入れないのは、
僕がキラでもないかぎり不自然、という空気を作り出されてしまった。

くそっ!


「……なんて言えば僕がほだされて無条件に傍にいる、とでも
 言うと思った?」

「言わないつもりですか?」

「言うよ。でも無条件じゃない」


立ち上がってLの襟首を掴むと目を見開いたが、特に抵抗もせずに
引きずられる。
ベッドに投げ出しても、何も言わなかった。


「お前が言ったんだからな」


そう言ってシャツに手を掛けると、Lは合点が行ったというように小さく頷く。


「……私を、抱くんですね?」

「ああ」

「嫌がらせにしては自分のダメージもきつそうです」


自分の身を擲っても構わない、それくらい嫌がらせがしたいのだと、気づけ。


「あなたのプライドを傷つけるような事を言ったら止められそうですが
 借りを作る事になりそうなので言いません」

「そう……なら、お互い様だな」

「はい。あなたが将来、させてやるから逮捕しないでくれと言って来ても
 聞く必要はないという事です」

「おまえね……」


Lは、仮にも年上の男性だ。
性欲の対象にはなり得ない。
いや、例えLが女性だったとしても、きっと僕は欲情出来ないだろう。

性欲というのは、突き詰めれば出来るだけ長く子孫を残したいという本能だと思う。
子を無事に生み、有り余る母乳で健康に育ててくれそうな、
お尻と胸の大きな女性を好む男性が多いのも頷ける。

というか、そもそも男は子どもを産めないから最初から対象外なのだが
不妊症の女性には欲情しない、という事はないので、敢えてその辺には目を瞑ろう。

それでも。

出来るだけ自分とかけ離れた遺伝子と交わった方が、優秀な子を為せる可能性が
高そうだ。

竜崎は、僕と近すぎる。

どこかで血が繋がっているのではないかと思える程に。
その頭脳も、考え方も。

だから、たとえ女性であったとしても、僕は竜崎に欲情しない。

……まあ、僕は容姿で選ぶタイプではないから見た目は気にならないが。

この頭脳。この頭脳。

やられた、と、こんなに何度も思わされた相手は生まれて初めてだ。
竜崎にもし子どもがいたら、さぞや小賢しいだろう。
いや、相手の女性の程度によっては……。

……そう言えば、「強さ」という概念は体や精神のそれもあるが、賢さも含まれる。
そういう意味では竜崎の「強さ」は折り紙つきだ。
もし彼の遺伝子と僕の遺伝子が掛け合わされば、少なくとも僕と同じくらい、
あるいはそれ以上に優秀な頭脳の持ち主が生まれることは間違いない……。


竜崎を押し倒しながら二秒ほどでここまで考えると、目の前にあった大きな目が
更に見開かれた。








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