男前Lお題---濡れ 1 「……それで、いつ、火口の名を書いたんですか?」 激しく突きながら聞いたが、私の下にいる青年はそれどころではない。 ほの赤く染まった背中、快感を逃がすように、追うように、捩る腰。 「教えなさい。でないと」 不意にその腰を掴んだ手に力を込め、お互いの動きを止めると 夜神月は悲鳴を上げた。 「やっ!やめない、で、く、」 「ならば」 「分かった、分かった言うから!」 身悶えするのが、少し哀れになってゆっくりと腰の動きを再開する。 「火口の、」 「火口の?」 「デスノートを、手に持ってた時、」 「私の傍にいましたよね?」 「そう、」 「なら無理じゃないですか」 「おまえの、目を盗んで……!ああっ駄目!」 手を伸ばして、自分で扱こうとする手首を掴む。 まだイかせたりしない。 「まだです。そんな事をして、ノートを調べられたらおしまいですよね?」 「とけい、」 「時計?」 「腕時計に、別のデスノートの切れ端を仕込んでおいたんだ」 「無理がありますね」 「裏蓋が、スライドするように……細工、して、」 「自分で?」 「自分でだ!なあ、もう、イかせてくれ……!」 良い感じに泣き声になってきたが、そのお陰で私ももう爆発寸前だ。 彼の両手を掴んで手綱のように引き腰を打ち付ける。 本当に、無理がありすぎる。 狭いヘリコプターの操縦席と副操縦席に座っていて、片方に気づかれず 名前を書くだって? しかも、腕時計の裏蓋に細工。 どれだけゴツい腕時計か知らないが、プロが加工しても嵩張るだろうに 素人が不自然にならないようにそんな事出来る筈がない。 などと、無粋な事は今は言わない。 告白の内容はどうでもいい、彼の身悶える様を堪能したかっただけで その目的は達成した。 浅く、深く何度も突く。 睾丸と睾丸がぶつかって予測不可能なリズムを刻む。 私の汗が、夜神の背にぱたりと落ちて、その肉の動きに合わせて上に下に揺れた後 つるりと滑って背筋に溜まった夜神の汗に混じった。 「それで、ミサが逮捕され、死刑になる事を恐れたそのレムっていう死神が おまえとワタリさんの名前を書いてくれた」 「そうですか……」 「……ワタリさんの名まで書いてくれるとは思わなかったけど、 思えばそれがなければキラはもっと早く追い詰められていたな」 適当に頷きながら、ベッドの横の小型冷蔵庫を開く。 良く冷えた缶ビールを二本取り出し、一本差し出すと夜神は手を振って拒んだ。 「セックスの後って、喉渇きません?」 「僕は水で良い。未成年だし」 夜神の思いがけない生真面目さに目を見開きながら、ビールを戻して ミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。 カシ、とプルトップを開け、軽く掲げると夜神も私の目を見ながら ボトルを持ち上げた。 ごくり。 白く、汗の筋が光る喉が大きく動く。 そのビジュアルに微かに欲情の兆しのようなものが体の芯に宿り、 私は一人で苦笑した。 「でさ、おまえが死んだ後、しばらくは本当に順調だったんだけど」 「夜神くん」 「何?」 「シャワー、浴びませんか?」 「一緒に?」 「ええ。一緒に」 当然その意味が分かったのだろう。 夜神は少し困ったように笑いながら、それでも大人しく着いて来る。 シャワールームに入り、いきなり頭からシャワーを浴びせると 夜神は幼い少年のようにはしゃぎながらバタバタ足踏みをした。 「僕ばかりずるいぞ」 突然こちらを向いてニヤリと笑うと、見ていた私を突然突き飛ばし、 シャワーヘッドを奪う。 「わっ……ぷ!ちょ、」 私も顔に湯を掛けられて、目が開けられなくなった。 仕方なく手さぐりで夜神を壁に押し付け、シャワーヘッドを奪って 壁に掛ける。 そのまま髪をかき上げ、夜神の唇に自らの口を押し付けた。 「ん……」 鼻に掛かった声。 唇を動かし続けていると、伸び始めた髭がチクリと刺さる。 それすら、興奮の材料になった。 女みたいな顔をして、やっぱり男だな……。 ゲイだから、相手に女の良さは全く求めない。 折れそうに華奢であったり肌が柔らかかったり、そんな質に嫌悪はないが 特に魅力は感じない。 それよりも、夜神の筋肉質な体、自分と同じくらい高い背、 男っぽいニヒルでサディスティックな表情に、私は興奮していた。 それでいて時折少年らしいリアクションや甘える表情を見せるのだから 堪らない。 舌を深く差し込んで夜神の舌の裏や歯列を味わっていると、 鼻息が荒くなってやがて苦しそうに逃げていった。 息苦しい、と文句を言われると思ったが、何も言わず下を向いて こっそり息を整えている。 「……おまえ、オールバックになるといかついね」 やがて顔を上げ、何事もなかったかのように唐突な話を始めた。 変なところで妙に負けず嫌いだ。 「そうですか?」 「眉毛どこに置いて来たの?お母さんのお腹の中?」 鼻の頭からシャワーの雫を垂らしながらそんな事を言う夜神は、 実際可愛い。 「……」 答えず、口の端で笑いながら腰を引き寄せると、 丁度同じくらい芯を持ったお互いの性器が触れ合った。 「……おまえが死んだ後、それを公表せず、僕がLとして活動を続けた」 「キラも続けながら?」 「そう。二足の草鞋だね。なのに、数年経った時、 おまえの後継者だというのが現れた」 私が死んで話は終わったと思ったのに、まだ続くのか……。 「しかも二人いて、一人はおまえを潔癖にしたようなの、 もう一人はおまえのアウトサイダーな部分を凝縮したような……ん……」 おまえに、私の何が分かるのだと小さな苛立ちに駆られて 強く擦り付けると、夜神はびくっと震えて体を硬くした。 お互い、血が、そこに集中するのが感じられる。 「やっぱり若いですね……お腹につきそうです」 「おま、えは?何歳なの?」 「まあ、この角度分くらい年上です」 夜神に比べれば鈍角に勃ちあがったそれを、突き刺すように動かすと 夜神が突然ずるりとしゃがみこんだ。 一瞬「めまいか?」と思ったが、突き出した舌と、上を向いた 悪戯な笑顔でその意味を理解する。 私もニッと笑って、わざと卑猥に腰を回して見せると夜神は笑いながら 舌でそれを追いかけ、やがて唇で捕らえた。 私の腰骨を掴み、じゅぷじゅぷと湿った音をさせながら、唇で扱く。 意図的に焦らす事もしないその幼い技術。 それが却って、私を興奮させる。 我慢できなくなって夜神の髪を掴み、自ら腰を動かして口内を犯していると また苦しげに口を開けた。 こういった事に、本当に慣れていないのだろう。 どこまで痩せ我慢するのか知りたくて、開いたままの口に更に押し付ける。 舌の根元に擦り付けて快感を追っていると、急に喉の奥が締まって 突き飛ばされた。 「う……ええ〜〜っ」 「す、すみません」 「おまえな……」 えづいた後の、涙を湛えた目で私を睨んで立ち上がる。 それはそれでそそるが、どうもそれどころではなく立腹しているようだった。 「本当に、」 「もうやめる」 「そうですか……」 シャワーを止めて背を向け、バスタオルを羽織った夜神は、 がりがりと乱暴に頭を拭いた。
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