Guinol 6
Guiniol 6








「この部屋を出たら、全て無かった事に、します。
 だから今は全部忘れて、ただ僕を……」

「ジェバンニ……」


男は、快楽に弱い。
勃起させられたら、もう負けと言って良いだろう。

私はジェバンニの肩の辺りに手を突いてその身体を包み込むようにして、ゆっくりと目を閉じた。
彼も長身と言える体躯だが、私からすれば華奢なものだ。

それからかつての恋人の、ハニーブロンドを思い出す。
彼女はDoggy styleは嫌いだったが……。

妄想の中のハニーブロンドは、やがて栗色のさらさらとしたショートカットに変わる。

夜神、月……。

それから、背中を爛れさせたジェバンニに変わって。
目を開けると、目の前の現実は妄想よりもずっとエロティックで。


「ジェバンニ……ジェバンニ」


耳元で言いながら腰を動かすと、入り口がぎゅっと締まる。
本当に……どうやら私は、男でも女でも関係無いらしい。
何やら情けない気もするが、ジェバンニの言う「愛したり愛されたりする事を良しとしない」性質と関係あるのかも知れない。


「ああっ、レスター……好き、です。好きです」


SPKの中では基本的に英語で会話をするが、全員日本語もかなり話せるようになってもいる。
ジェバンニとも先程から英語で話しているが、「suki-des」だけはずっと日本語で発音していた。
「I love you」とも付かず、「I like you」とも付かない、時に「not so bad」をも表す曖昧な「suki」が、彼の心境に合っているのかも知れない。


「レスター……」

「私の名前は、レスターではない」

「……」

「私の本当の名前は、」


その時ジェバンニが突然、俯せたまま私の手首を掴んだ。


「言わない方が、良い」

「何故だ。もうキラ事件は、」

「聞きたく、ないんです……」

「そうか……分かった」


聞きたくない、か……。

私は、ファーストネームは公表している通りアンソニーだが、ファミリーネームはレスターではない。
ジェバンニも恐らく、ステファンは合っているだろうが、ジェバンニではないのだろう。


「ステファン……」


もう手首を掴まれないよう、その両手首を押さえつけて囁くと、全身が感電したように跳ねる。


「ステファン」


何度も呼びながら、腰を打ち付ける。


「ステファン、」

「はっ……あ、……ず、るい……」

「何がだ、ステファン……」


ステファンは夜神のベッドに顔を押しつけ、咽び泣きながら何度も達した。
最後の方には、自分で自分を扱きながら、狂ったように腰を振っていた。




「どう……しましょう」


夜神のベッドのシーツから、絨毯にかけて。
まるで誰かが放尿したかのようにべっとりと濡れていた。
いや、それにしては粘度が高すぎるが。


「汗も」

「そうだな……」


いつの間に脱ぎ捨てたのか、ジェバンニも私も裸になっていて、恐らく辺りには汗が飛び散っている筈だ。
火事の現場で、つまり警察に綿密に調べられるであろう場所で、一体何をやっているのだ……。

やはり、ジェバンニの言う通り、


「初代Lの、仕業だろうな……」

「は?」

「そうとしか考えられない。私に憑依したのは」

「……失礼ですが、一体何を?」

「……」


唖然とした顔をしているが、唖然としたいのはこちらだ。


「いや……君が言ったんだぞ。私が、夜神月に懸想していた誰かに憑依されていたと」

「いやまさか、本気だとは……。
 普通に、あなたが夜神月に想いを寄せていたのだと、」

「冗談じゃない!」


いや、そうだ……誤解されても仕方ないな。


「ステ……いや、ジェバンニ。
 これからちょっと信じられない話をしたいんだが信じてくれるか」

「あなたの言う事なら信じます。が、その前に服を着ましょう」


私は皺だらけになったシャツを羽織った。
ジャケットは……焼け焦げてもう使い物にならないな、あまり着た事もないが。

ジェバンニの背中には軟膏を塗り、タオルを貼り付けた。
医者は後で良いだろう。
彼は焼け焦げて丸められた自分のワイシャツに目をやって、情けなく眉を下げた。


「不本意ですが……夜神の服を貰います」


ジェバンニと夜神は、身長もそう変わらないし体格も似ている。
まあ、他に仕方ないだろう。
どうせ着る者も既に居ないのだ。

ジェバンニはスラックスの上に、地味な縦縞のシャツを羽織った。
取り合わせとしてはややおかしいが、大火傷を曝しながら半裸で外に出るよりはマシだ。


「で?話とは?」

「あ、少し待ってくれ。ニアに、この火事の跡をどうすべきか指示を仰ぐ」


電話をすると、珍しくワンコールで出た。


『遅いですね』

「すまない。予想外の事態が起こって」


勿論ジェバンニと私の事は伏せ、夜神の机から火が出た事、その仕掛けを簡単に説明する。


『全く……下らない事を』

「面目ない」

『いえ。夜神ですよ。まるで小学生の発想だ』

「しかし、デスノートを守る為には他に無かったのだろう」

『ですかね。まあ夜神が相当“L”と似ていたというのは面白い発見です』

「?」

『幼稚で大袈裟で非現実的で、そのくせ手間暇も金も惜しまず大胆に実現する。
 まるで、初代Lがやりそうな事だと、思いませんか?』

「さあ……私には」


初代Lを知らないのだから何とも言えないが。
妄想の中の、鏡に映った夜神月がちらりと思い浮かぶ。


「それで、これからどうすれば」

『燃やして下さい』

「え?」


全く……いい加減、この間抜けな返答はやめたい。


『木の葉を隠すなら林の中。火元を偽装して、家全体を燃やして下さい。
 勿論周囲に延焼はしないよう細心の注意を払って』

「……」


幼稚で大袈裟で非現実的で、そのくせ大胆に実現する……のは初代Lや夜神だけではないな。
しかし、


『それに、万が一あなたがたが見つけられなかった場所にデスノートの紙片が残っていたとしても、それで全て灰になります』


そう言われると返す言葉も無い。
また、こういうミッション自体に慣れてもいる。

そして……ニアが気付いているとは思わないが、それで私達の情事の跡も、消し去ってしまえる……。


「分かった」


私は小さく頷いて通話ボタンを押した。
ジェバンニも隣で聞いていたようで、何とも言えない顔をしていた。






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