Girl friend 2 「マクドナルドは懐かしい?」 「食べた事ありません」 「じゃあモスにするか」 英語で会話しながら、一番近くにあったファーストフード店に入る。 苔?のバーガー?と思ったが、どうも日本のオリジナルハンバーガーらしかった。 私を奥の席に座らせ、夜神が入り口付近のカウンターに戻る。 適当に注文してくれたのだろう、戻ってきて、小さく溜め息を吐いた。 「奥の席にして良かった」 「はい?」 「靴を脱ぐな。椅子の上で片膝立てるな」 「どうしてですか?」 「下着が見える」 「余計なお世話です」 「……」 夜神は頭を小さく振ってそれ以上何も言わず、向かいに座った。 「ニアとのデートは久しぶりだな」 「……は?」 夜神とどころかいかなるデートもした事はないと思うが、 夜神の事だから言葉どおりの意味ではないだろう。 「前はお前の方から誘ってくれただろ?」 「……」 「『お会いしたい』って」 ああ……一年前のYB倉庫での対決か。 長らく音声通信のみだった「二代目L」と、最初で最後の対面……になる筈だった。 お互いに、相手を滅しようと知恵を絞りつくした大勝負。 「ええ……それはもう、会いたかったですよ」 「会った感想は?」 「写真よりずっと凶悪な顔をしていました」 何故こいつの周囲の奴らはこいつがキラじゃないと思えるのだろうと 不思議に思ったほどに。 なまじ端正な容貌なだけに、悪魔的ですらあった。 「おまえだって人の事言えなかったよ」 「そうですか?どんな印象でした?」 「可愛かったけど、気味悪かったな」 「矛盾してますね」 「しない。例えば、弱った鼠や虫をいたぶる子猫の顔、だよ」 「なるほど。虫ケラ視点ですか」 「……運で勝った癖に」 「運でもイカサマでも勝ちは勝ちです」 夜神が、当時のように毒々しい笑顔を見せる。 確かに、メロが行動していなかったら…… 魅上が高田を殺すよう仕組んでくれなければ…… 私は魅上のノートが偽である可能性に気付いていなかったから 今ここにはいない。 間違いなくあの頃の私は、夜神の読みと行動力を侮っていた。 夜神が少し顔を近づけて、声を低くする。 「メロと魅上の動きは確かに計算違いだったが、 それ以上におまえは運に頼りすぎた」 「……例えば?」 「例えば魅上がおまえ達の名前を書いてすぐ去ったら? ノートは回収出来ないし、残された僕達はさぞや間抜けな事になっただろうな」 「私達が死ぬと確信しているのに逃げる理由がありません」 「分からないだろ?本物の死体を見るのを嫌うタイプかも知れないし 僕が魅上との必要以上の接触を嫌って指示していたかも知れない」 「そんな……万が一を気にしていたら、あんな勝負できませんでしたよ」 「なら、魅上が切り取って携帯しているページで高田を殺していたら? 僕が首尾よく自分の切れ端におまえの名前を書けていたら?」 一年以上前の事がよくすらすらと出てくるものだ。 しかしそれは夜神の忸怩たる思いの表れに違いない。 私も思わず口角を上げてしまった。 「……なんだよ」 夜神が、尖った声を出す。 「それを言うなら、もし私がSPKのメンバーを外部に隠していたら? デスノートの記録を他に流していたら?」 「僕はおまえを、信用していたよ。 倉庫で会う約束、その条件、これほど美しく勝つ事に拘る奴が そんなせこい真似をする筈がない」 「それこそ思い込みです。命が掛かっているんですから当然対策しましたよ。 危なくなったらそれを盾に逃げるつもりでした」 「嘘吐け」 「……」 「Lも言ってたよ。おまえの弱点は、潔癖すぎる所だと」 「あなたこそ嘘吐きです。Lがそんな事を言う筈ありません」 「ふ……ふふ」 「ふふふ」 私達は顔を寄せ合って英語の小声で話していたが 表情だけ見れば傍目には痴話喧嘩に見えたかも知れない。 それがいきなり笑い出した事に、少し離れた場所にいた客が目を剥いた。 「あなただって、日本捜査班とSPKメンバーの名前を 事前に書くことをしなかった。無駄に美しく勝とうとした証拠です」 「そうだな。それでおまえと二人きりになれていたら、絶対に勝てたのにね」 「結果論です」 「そうなんだが、僕は今でも単純な手を一つ打って置かなかった事を 少し後悔してるよ」 「単純で、あの状況から逆転出来る手がありましたか?」 「ああ。至極簡単な手だ」 「今後の参考までに聞いておいて良いですか?」 「今後って、まだ僕がデスノートを隠してると疑ってるのか?」 夜神は、また睨む振りをしてきたが本気で怒っている訳ではない。 すぐに微笑んで、口を開いた。 「りんごを一つ、持って行けば良かった。ってね」 「……は?」 「あの死神はおまえが思っているよりずっといい加減なんだ。 りんごに目がないから、あの時僕が差し出せばおまえの名前を書いたと思う。 ……おまえは、りんご一個分の差で、勝ったんだよ」 丁度そこでオーダーしていた食べ物が出て来た。 夜神は、私に向かってアップルパイを差し出した。
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