Girl friend 1
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夜神の指が、繰り返し私の髪を梳く。
時々耳に、指の先が当たった。


「ニアの髪、本当に柔らかいね」

「わざと私を気持ち悪がらせようとしてますね?」


私とした事が、無視すれば良いのに間髪入れず返してしまう。
夜神の対応に慣れて来てしまったのか。
背後の本人は答えず、少し笑った気配のままに私の髪をヘアピンで留め始めた。
そして、その上から栗色のボブの鬘を被せる。


「ほら。別人だろ?」

「はあ」


別人と言われても鏡なんだから異様な風体をした自分にしか見えないが、
まあ、遠目に見れば私には絶対見えないだろう。


「まゆげ」

「え?」

「睫毛の色を変えたでしょう?眉毛はいいんですか?」


白色系だった睫毛に色を乗せられて、目元の印象がだいぶ変わっている。
眉毛だけ白いと、眉がないようで何だか妙だった。


「いいよ前髪で殆ど見えないんだから。
 普段あんなだらしない格好の割りに、完璧主義なんだな」

「……もう良いです」


確かに、こんなに本格的に外出に備えた格好をしたのは生まれて初めてで
どこまで拘ればおざなりでないのか、変装だとバレないのかラインが掴めない。
生まれて初めてがこんな格好と思うと、改めて情けない気もした。





ヘッドドレスを着けられ、ふわふわしたコートも着て手袋も填めて
(防寒以外に肌の白さを目立たせないため、指紋を残さないという役割もある)
踵の太い靴を履く。

夜神も、ワックスで髪をばさばさにしてレンズの色の濃い伊達眼鏡を掛けていた。
かなりどうかした出で立ちだが、それで良いのだろう。
私だって人の事を言えないし。


夜神はLに「じゃあ行って来る」とだけ声を掛け、Lも「はい」とだけ答えて
私達はあっさりエレベーターに乗った。

分かっている。Lがどれ程心配しているか。
夜神のネックレスの発信機の電池を入れただけではきっと心もとないだろう。

「必ず帰ってきます」と、どうしてその一言が言えなかったのかと。
エレベーターに乗っている間に私は既に後悔していた。


「どうした?ニア」

「私……行って来ますを言いそびれました。
 誰かを残しての外出に慣れていない物で」

「なら今言ったら?」

「ああ……」


本当だ。
私とした事が、何を迂闊な事を言ってしまったのだろう。
やはりどこか外出に対して緊張しているのかも知れない。


「L、聞こえてますか?」

『はい、充分』


私は、エレベータの中の監視カメラを見上げた。


「行って来ます」

『はい。行ってらっしゃい』




屋外は、晴れているのに本当に寒かった。
一体どうなっているんだ。


「まず、ちょっと本屋に寄っていいか?」

「はい」


私が靴に慣れずふらふらと歩いていると、夜神が笑いながら肘を突き出す。


「掴まって良いよ」

「誰が」

「その方がデートとして不自然じゃないし」


そう言われればそうかと、その腕に掴まる。
夜神の腕の高さは、ヒールのある靴を履いた私からして丁度良くて
格段に安定した。

Lのビルから少し歩いた所にあるショッピングモールの、エレベーターに乗って
本屋のある階まで行くと視線を感じる。


「……夜神。そのまま視線を動かさずに聞いて下さい」

「何?」

「右手の柱の前の男、こちらを見ています。
 まさか金髪と関係があるんでしょうか」


夜神はこちらを向いて、くすくすと笑った。


「あいつだけじゃないけどね」


言われて気づけば、近くの女子高生?制服の若い女の集団、
少し遠くの年配男性、女性の二人連れ、カップル、
こちらをチラチラ盗み見ている人間が少なくない。


(モデル?げーのーじん?知ってる?)

(撮影?どっかカメラある?)

(マジイケてる!)

(あんなのがタイプなん?)


目立つ格好を選んだのだから当たり前と言えば当たり前だが、
思った以上に注目されているようだった。


(こえ〜)

(ロリータがあんなに似合ってる人初めて見た)

(日本人じゃなくね?)


私は実は耳も良い。
「あれ男じゃね?」と聞こえるのが怖かったが、そんな事もなく、
早足で夜神にくっついて行った。

夜神はギャラリーを気にする様子もなく堂々と本屋を一周し
雑誌とビジネス書とコミックを一冊づつ購入していた。






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