帯我到月 4 「京子ちゃんって、流河くんの事好きなんですか?」 「本人が言ってた?」 「いえ、流河くんの事を話す時赤くなってたから、そうなのかなーって」 「うん。付き合ってるんじゃない?」 「そうなんだ!」 少なくとも竜崎に彼女が居る、と認識されれば、ゲイ疑惑は消える。 僕も適当な女の子と付き合えれば固いんだが……竜崎は許さないだろうな。 「流河くん何してんの!」 体育会系が頓狂な声を上げるので見ると、竜崎がビールジョッキに 届いたばかりのりんごジュースを注いでいた。 「ビールとジュースを混ぜてます」 「食べ物で遊ばないー」 「飲みますよ?というか混ぜないと飲めません」 皆が固唾を呑んで注視する中、竜崎は泡の消えたビールに林檎ジュースを注いだ物を ごくりごくりと一気に飲んでいく。 僕は、竜崎が紅茶カップより重い物を持っているのを初めて見た気がした。 「うっわ……」 「お、男だねぇ、流河くん」 「いや……うん、ある意味偉いよね」 「次は日本酒が飲みたいです。甘いの」 上野さんと大久保さんは、口を半分開いたまま僕の方に顔を戻した。 「濃いですね……流河くん」 「まあね」 「首席の夜神くん、流河くん、ミス東大候補の高田さん、何だか豪華というか 華やかな合コンだったんですね。びっくりしちゃった」 「いや、流河も僕も地味だよ。高田さんは今日偶然会っての飛び込みだし」 そこで、自分の名前を聞きつけたのか、高田がこちらの方へ来る。 さりげなく僕の隣に座ると、両手で持ったビールグラスを少し傾けた。 「ごめんなさいね。元々夜神くんとお友だちだったんですが その夜神くんのお友だちの京子ちゃんと、気が合ってしまって。 お邪魔かと思いながらも押しかけてしまいました」 「いえ!そんな!」 高田が、さりげなく自分は僕の繋がりだと、女の子達を牽制する。 全く、束縛の強い女だ。 「光栄ですよー。高田さんや流河くんとも、お話出来る日が来るとは思ってなかったから」 「そう言えば流河くんって、模試で全然名前出てませんでしたよね?」 「そうそう!名前変えたんじゃないかとか、帰国子女とか色々言われてた。 実際どうなんですか?」 「どうだろ。本人に聞いてみたら?」 「はい〜、聞かれましょうか」 背後から突然聞こえた声にぎょっとすると、竜崎が気配もなく 僕と高田の後ろに立っていた。 「どっ、」 どうしたんだ、と聞こうと思ったが、竜崎はにたりと笑って高田の向こう側に腰を下ろす。 そして、信じられない事に馴れ馴れしくその肩を抱き寄せた。 「きゃっ」 「いや〜、美人の隣は良いですね〜。 夜神くん、独り占めは許しませんよ?」 「そんなつもりはないよ」 「高田さん、何か私に質問があるとか?」 言いながらも高田の顔に顔を寄せる。 酔っているのか……? しかしその手はがっちりと高田の肩を掴み、僕の方へ逃がさないようにしていた。 「流河くん、酔ってますね?お酒臭いですよ?」 「酔ってませんよ〜多分。高田さん、香水臭いですよ?」 高田は引き攣り笑いをして何とか流河の手を離そうとしていたが、 自然には無理だった。 「質問。私に質問をして下さい」 「……分かりました。 流河くんが入学前の全国模試で名前が出ていなかったのは何故なんですか? という話をしていたんです」 「ああ、簡単です。受けていなかったからです」 「何故ですか?」 「必要ないからです」 「……」 よく見れば、いつも青ざめている竜崎の、首筋が赤らんでいる……。 先程まで流河がいた席を見て見ると、日本酒の小瓶が空になっていた。 中ジョッキ一気のみの後、日本酒300ミリリットルか……。 「模試とか受けなくても、受かるって分かってましたしね〜」 「凄いですね」 「凄いんです、私。高田さん、何故夜神くんなんですか? 多分、私の方が凄いですよ?」 「……」 僕は流河が酒を飲んでいるのを見た事がない。 酒を必要としていない、ストレスのない生活をしているのか、 あるいは、全く飲んだ事がないのか……。 後者だとしたら、不味いんじゃないか? 「流河。おまえ酒癖悪いぞ。女の子に絡むな」 「別に〜?酔ってませんし?」 「京子ちゃんが可哀想だろ」 「私は高田さんより京子さんの方がタイプなんで。 高田さんに絡んでいるつもりもありませんし?」 隅で黙々と手酌で日本酒を飲んでいた京子さんが、真っ赤になる。 彼女の事だ、嫉妬していたという事もないだろうが、竜崎が高田さんの 肩を抱いたりするのを見ているのは、辛かっただろう。 まあ今の発言でチャラか。 「まあまあ、ちょっと高田さんから離れろ、そしてお茶でも飲んでろ」 「男の子に絡むのは良いんですか?夜神くんに絡んでも良いんですか?」 「ああ、その方がマシだね」 すると、竜崎はニヤニヤしながら僕におぶさってきた。 その体温が高い。 離れた所で京子ちゃんや女の子達が、嬉しそうに「きゃー!」と手で口を覆っていた。 「流河くん、酒に弱いんだね」 「というのか飲んだ事が無いのかも?」 「そうなんだ?俺達より年上だよね?」 「社会人じゃないのかな?」 体育会系や眼鏡と話していると、背中の流河が呻いた。 「聞こえてますよ〜。私は探偵です」 「た、探偵?」 バカ! 自分がLだとバラすつもりか? 酒の席での事だ、冗談で済むとは思うが、ついでに僕までキラだと 名指しされては……気分が良くない。 さりげなく話題を変えよう。 「そう言えば流河はあまり歩いた事がないんだよな?」 「ですねぇ」 「今日の昼間、大観 記念館まで往復歩いたから、疲れてるんだよ、多分」 「ええー、あそこまでで?」 「なぁ?流河」 「日本画に興味あるんだ?」 「そうですね〜……日本家屋にも、興味有ります」 そうだ、珍しく事件以外の事に興味を示していたんだ。 「そうだったな。おまえにそんな文化的な側面があった事に驚いたよ」 「というか、私、日本人の血が入ってますからね〜。 祖国の文化と思えば、ちょっとは知っておいても良いかと」 「ええっ!日本人じゃないの?」 「違いますよ〜色々混ざってます」 「そう言えば色白いもんね」 「そう言えばちょっと彫り深いかも?」 「じゃあ、帰国子女って噂本当だったんだ!」 それが口から出任せなら良いが。 本当だとしたら、相当酔っている……Lが、自分のルーツを語ってしまうなんて。 ……いや、もっと酔わせれば、自分の本名を言ったりしない、か? その時、背中に違和感を感じた。 こいつ……!
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