帯我到月 1 机の上に放置した携帯を手に取る。 先程まで着信を知らせるイルミネーションが光っていた筈だが 今は消えていた。 流河の仕業だろう。 とは言え、竜崎はいつでも僕の携帯を見て良い事になっている。 しかし。 「おい」 「何ですか?」 「『流河にレポート手伝って貰うから結構』って何だよ! おまえが金払ってる携帯だし見るのは構わないけど、勝手に返信するなよ!」 「ならその子と本当に図書館デートするつもりだったんですか? それにあなただって私の携帯から勝手に返信してるじゃないですか」 「それはおまえが適当に返事しとけって僕に頼んだんだろう!」 竜崎も、大学用に仕事用とは違う携帯を持っていた。 そちらは僕が見ても良い事になっているし、むしろ管理もしろと言われている。 「でも、『良いですよ。でも私男友達夜神くんしか居ないんですが大丈夫ですか?』 って何ですかこれ」 「ほら、京子ちゃんの友だちのアケミちゃん。 合コンするから、京子ちゃんの彼氏としてで良いから来てくれって」 「合コ……」 流河は砂糖の入っていないコーヒーを飲んだ時の顔をした。 「……あり得ません。Lが合コンなんて、何を考えてるんですか」 「だから着いて行ってやるって。 再三言ってるけど、僕にだってこういう誘いは多いんだ。 あまりにも断り続けているから、ゲイだって噂が冗談交じりに立ち始めてる」 「別に私は構わないと」 「僕が構う! それに京子ちゃんとアケミちゃんの友だちなら、多分そんなにガツガツした子は 来ないだろ」 「ガツガツって……」 流河は思い切り不機嫌に、口を歪めた。 「……夜神くんが行くなら着いていきますけど。 一切協力はしませんからね」 翌日、学校で竜崎がお気に入りの食堂に行くと、京子さんが現れた。 「珍しい。一人なの?」 声を掛けると、赤くなってもじもじと俯く。 「あの、アケミは……今、大塚くんと打ち合わせ中です」 「その大塚くんも今日来るの?」 「はい。一応メンバーは、流河くん、夜神くん、大塚くん、田端くん、 一年女子の上野さん、大久保さん、アケミ、私の予定です」 「知らない人ばかりです」 「最初は誰でも知らない人だよ。 少しづつ歩み寄って仲良くなって行くんだろ」 「私にはそんな」 言いかけているのに被せながら、京子さんに話し掛ける。 「一人ならお昼一緒に食べない?」 「あの……良い……んですか?」 「勿論。なぁ?流河」 「はい」 珍しく竜崎が答えを濁さない。 京子さんにはかなり慣れてきたのだろう。 デートは一回だけのようだが、もっと本格的に付き合っても良いのに、と思った。 まさかその度に先日のようなとんでもない事になったりはしないだろう。 「流河に聞いたよ。楽しいデートだったって」 「……っ」 京子さんは真っ赤になって顔の前で手を振った。 「いえっ!その、私も下調べもせずに誘ってしまって……」 「京子ちゃんも東京の人じゃないんだよね?」 「はい。秋田の……山の中です」 「なるほど、秋田美人だ」 「夜神くん」 低い竜崎の声に隣を見ると、 「……嫉妬させないで下さい」 僕を睨んでいる。 慌てて向かいの京子さんを見たら、呆気にとられた後真っ赤になっていた。 良かった……誤解してくれている。 「そんなに大事なら、おまえが喋れよ」 机の下で足を蹴りながら言うと、 「そうですね。今後あなたが京子さんと話す事を禁じます」 「っ!」 思い切り足を踏まれた。 「……ははっ!こいつ独占欲強いでしょ。 分かったよ、あまり京子ちゃんに構わないよ。 でも今晩のコンパは別な」 「こんにちは」 その時、突然頭の上で声がする。 舌打ちしたいのを押さえて振り向くと、トレイを持った高田が微笑んでいた。 「夜神くん。最近は真面目に授業に出ているんですね」 「わー、高田さんだぁ……」 僕が答える前に、京子さんが驚いたように口を開いた。 皆の視線が集まると、少しバツが悪そうに口を引き結ぶ。 「すみません。高田清美さんですよね?」 「ええ……」 「美人って噂になってたから。近くで見ても本当に綺麗ですねー」 「あらそんな」 高田に対して全く臆さない京子さんにも驚いたが、高田も満更でも無さそうに テーブルを回って京子さんの隣に行った。 「ここ、良いでしょうか?」 「あ、はい。勿論」 「あの」 高田は物問いたげにわざとらしく困ったような表情を作り、僕の顔を見る。 「この人は京子ちゃん。流河のガールフレンドだよ」 「あら!そうだったんですか」 高田は流河がゲイでなかった事、それどころか彼女まで居た事に 驚いたようだが、どこか安心したように微笑んだ。 まあ実際は「彼女」と言う程ではないが、ガールフレンドと言えば「彼女」だと 思うだろうし、竜崎は竜崎で、「女友達」と解釈するだろうから、 我ながら良い言い回しだ。 「でも、さっきコンパとか聞こえてましたけど……」 「ああ、それは友だちの頼みなんですよ。 彼氏彼女を探すっていう程でもなくて、知らない人と知り合いましょう、 という程度だと思うんですけど」 京子さんは、流河に対するのとは全く違い、要領よく話す。 異常にシャイな人だと思っていたが、どうやら対流河限定らしい。 「それで流河くんと夜神くんにも頭数に入って貰ったんです」 「まあ……」 「高田さんさすがに小食ですね。やっぱり美容と健康に気を使ってるんですか?」 「いえ、あの……」 確かに高田のトレイには、野菜のサンドウィッチとコンソメスープしか乗っていない。 京子さんと僕は和定食、竜崎はパンケーキ二段重ねを二皿なので 極端に少ないのは間違いないが。 あの高田がおっとりした京子さんに押されているのが少し笑えた。
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