初恋 28
初恋 28








「Wenn auf…… 」


僕のペニスから口を離し、耳元に来た流河がドイツ語を吹き込みながら、
指を増やす。
三本の指は中でばらばらと動き、内臓と僕の理性をぐちゃぐちゃに
掻き回した。


「der Erde die Liebe herrschte,」


何、言ってるんだ……。
分からないじゃないか。
黙れ!黙れ黙れ!

指が抜かれたと思うと、太くて丸く、熱い物が押し当てられる。
泣きそうな気分になったが、


「……waren alle Gesetze entbehrlich.」


静かな囁きと共にそれはずる、と僕の中に入って来て。


「ううっ……!」


僕は、絶望した。

男に……Lに……。
ヤられた……!

しかも恐ろしい事に……僅かな痛みよりも、快感の方が、勝っている。

嘘、だろ?
こんな硬い物が、臓器に拗じ込まれているというのに。

「例の場所」を、強く、しかし微細に刺激されて。

頭がおかしくなりそうだ。
眼球が沸騰しそうだ。
ペニスが爆発しそうだ。

陶酔して、愚かになってしまいそうだ。


結局、流河が何度か腰を動かしただけで、僕は達してしまった。


「うっ……締まり、ます……」


その少し後、流河も射精したようだった。




ぐちゃ、ぐちゃ、と粘着質な音に、短い気絶から目覚める。
僕は下半身の感覚が鈍くなっていたが、流河はまた動いていた。
自分の出した物が潤滑剤になって、まだまだ動けるのだろう。

何だか口が楽だ。

と思って、猿轡が無くなっている事に気付く。
首の横に、湿った布きれが打ち捨てられていた。


「ああ、気づき、ましたか……夜神くん」

「うん……」

「もう、大声を出さないのなら、猿轡はしません」

「……」


胸も、腹も、密着した肌。
その間でねちゃねちゃと気持ち悪く粟立つ、僕の出した精液。


「して、くれ、」

「はい?」

「猿轡。……じゃないと、」


流河の擦れた囁き声に、自分の体内が、また荒れ狂うのを感じる。
奔流に、身を任せて全てを擲ってしまいたかった。


「声が、出てしまう」

「……」

「きっとあらぬ事を口走ってしまう……」


流河は小さく頷くと、一旦動きを止めてまた僕の口を手拭いで縛った。

これで、声を出さずに済む。

みっともない喘ぎ声を。
「愛してる」だなんて言葉を。

「僕が、キラだ」なんて、告白を。

口から漏らさずに、済む。


流河の動きが再開され、僕は思う存分口の中で喘いだ。

文字通り、ドロドロになるまでお互い吐精したが、
僕は、言ってはいけない事を、言わずに済んだ。






翌日は、使った全室のシーツを洗濯し、乾燥させてから帰路に就くのだが
その洗濯係を流河と僕が買って出たのは言うまでもない。


「夜神くん。一昨日は申し訳ありませんでした」

「一昨日?昨夜じゃなくて?」


全く。
申し訳ながられるべき事が多すぎて、どれの事を言っているのか見当も付かない。


「一昨日です。
 あなたを縛って、無理矢理自分の物にしようとしました」

「ああ……まあ、昨夜も似たような物だけど」

「昨夜は違います。あなたの心は既に私の物だったのですから。
 後は初夜をいつにするか、という意見の擦り合わせが上手く行かなかっただけで」

「ああ……」


あれだけ乱れてしまった以上、怒って見せるのもきまりが悪いが、
改めて僕は、流河と……「L」と、一線を越えてしまったんだな……と痛感する。


「そう言えば、最中にドイツ語で何か言ってなかったか?」

「さあ、言いましたっけ?」

「うん。確か、リーベ、ヘア何とかって」

「ああ……
 Wenn auf der Erde die Liebe herrschte, waren alle Gesetze entbehrlich.
 ですね。
 気にしないで下さい。これもアリストテレスの……愛の言葉です」


僕は口の中で、竜崎が言った台詞を出来るだけ正確に全文繰り返す。
家に帰ったら調べてみようと思った。


「流河」

「はい?」

「僕は、ドイツ語は殆ど知らないけど。
 数と挨拶と……『Ich』『liebe』「dich』くらいは知ってる」

「……」


流河は虚を突かれたように立ち竦んでいたが、
やがて僕の手を恭しく取り、手の甲に長く口づけた。






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