初恋 24 「ちょっと待て!『本当に結ばれる時まで取っておく』とか言ってなかったか? こんな所で、その、初めてなんて、ちょっと……」 流河は動きを止めて少し考えた後、 「分かりました」 と、一旦引き下がった。 そしてポケットから手拭いを……昨日の肝試しで取った東大印の日本手拭いを 取り出し、何故か自分を目隠しし始める。 「何、してるんだ……」 「あなたの肌を見ません。最後まで出来るとも思いません。 でも……どうか、少しだけ触れさせて下さい」 そうして目隠しをしたまま、手探りで僕のジーンズに触れ、先程の続きを始めた。 「止めてくれ……」 僕はボートの縁を両手で掴み、何とか逃れようとするが、 動く度に船体は大きく揺れる。 そうしている間にも、流河はたどたどしい手つきで 僕のジーンズと下着を太股までずらしていた。 「失礼します、夜神くん」 相変わらず手探りで僕の性器を探す。 何とか腰を捩って逃れようとしたが、内股を這った指は、遂に睾丸に辿り着いてしまった。 やんわりと握り、目隠しのまままじまじと顔を近づける無表情。 殆ど狂人のようだった。 「流河、マジで、」 「手触りが気持ちいいです。が、全く興奮していませんね」 そう言い様に、流河は突然僕のペニスを掴んで赤い舌を伸ばした。 そしてそのままソフトクリームを舐めるかのように……。 「!」 何て事をするんだ!気持ち悪い! 「ちょ!」 思わず足で流河の肩を押しやると、船が横に揺れてまた波が掛かる。 「静かに。舟がひっくり返ります」 「……!」 「私、本気です。全く見えてませんから、舟から落ちないように自衛する事すら 出来ません」 それって……。 何気に命を張ってるって事か? 「あなたはただ目を瞑ってじっとして居れば良いんです。 二人で死蝋になって、永遠に湖底に沈みたく無ければ」 「冗談……」 「私はそれも悪くないと思いますが」 舟の縁を、強く掴みすぎて指が痛い。 それからは流河は、一言も喋らず僕の茎を咥えた。 色々な意味で、動けない……。 ぬるぬると熱い、その口内。 時折ざらりと舐め上げられ、どくんどくん、と自分が充血して行くのを感じる。 流河に自分の顔を見られていないのは救いだが、どうしようもない屈辱に 僕は苛まれていた。 ……だが。 僕は、微動だに出来なかった。 不安定な狭いボート。 僕が逃げ出そうとすれば、目隠しをした流河はすぐに重心を崩してしまうだろう。 流河だけが落ちるなら良いが、小さな舟は二人が協力してバランスを取っていなければ すぐに転覆してしまう。 二人して冷たい水に投げ出されて、夢中でどこかに向かって泳いで。 もし首尾良く体力が尽きる前に岸に辿り着けても、そこが上がれる場所では 無かったら。 そこまで考えると、死の可能性も浮上するのは否めない。 僕は策も無く、流河を刺激しないようにただ固まっている事しか出来なかった。 流河は足下や僕の太股を掴んだ手は安定させ、頭だけを動かしているので 体重移動がボートに伝わらないらしい。 対して僕は、 「んっ……!」 尿道を、舌先で刺激されて思わず腰が持ち上がった、 たったそれだけの動きで、ボートが揺れる。 「夜神くん……危ないですよ?」 亀頭に唇を付けたまま、喋られると、息と、舌先が当たって……。 「先走りが出て来ました。美味しいです」 死ぬ程気持ちが悪いのに、もう爆発しそうだ。 「流河……嫌、だ……あっ、」 指一本動かせないのに、何とか刺激を逃がしたい体は 勝手に口から喘ぎ声を漏らす。 「あ、ああ……もう、駄目だ……あ、あ、あ、ああ、」 一切反射せず、霧の中に飲み込まれていく声は、まるで自分の物ではないようだ。 「夜神くん。ここが案外岸から近かったら、先輩達に聞こえてしまいますよ?」 「!」 そんな事を言われても。 慌てて口を閉じると、体の中で吹き荒れる性感は、行き場を失って 「ううう……んっ!んっ、嫌、ぁ、」 一気に密度を上げる。 体の中の圧力に耐えきれず、目尻から涙が零れる。 そして、 「んっ、あ……ちょっと、止まっ……あ、ああっ!」 擦れた声と共に、僕は一気に爆発した。 見開いた目の前には、まだ真っ白な闇が広がっていた。 射精しても、不随意にびくん、びくん、と腰が痙攣していた。 こんな経験は初めてだ。 口でされたのが初めてだからか。 それとも動く事も声を出す事も出来ないという、状況の異常さからか。 膝にパンツと下着が絡まって開かない。 足を揃えたまま横倒しになっていると、乱暴された後の女性のようだ。 情けない……生理的な涙の跡の上に、別の涙が流れた。 「……精液を口にしたのは初めてですが、飲めた物ではないですね。 カウパー氏腺液はさっぱりした塩味で悪くなかったです」 足下から聞こえた声に、袖で目元を拭う。 流河の方を見ると、目隠しをしたまま自分の掌をくんくんと嗅いでいた。 どうやら僕が出した物を掌に吐き出したらしい。 湖で手を洗えば良いと思ったのだが、流河の口元はそのままニヤリと笑った。 「潤滑液に使えます」 おい……。 自分のこめかみ辺りがスッと冷たくなった。 顔から血の気が引くとは、この事か。 「流河……本当に止めてくれ。しないって言っただろう?」 「まだ霧は深いです」 「いや、その……激しく動いて舟が揺れたら、危ないし、」 何言ってるんだ僕は……。 今度は耳元が熱くなった。 客観的に見れば恐らく、僕の顔色は青くなったり赤くなったり忙しいんだろうな。 流河に見えなくて良かった。 「ああ、」 流河は口を半分開けた顔を斜め上に向け、精液が付いていない方の手の 人差し指を咥えた。 「最後までとは考えていません。 ただ、いきなりあなたの中に突っ込んだら、あなたが苦しむのは分かります」 「……」 「男性でも、中で感じるポイントがあるそうですよ」 「!」 流河がしようとしている事に思い至り、ざわりと鳥肌が立つ。 思わず後ずさると、小舟がぐらりと傾いた。 「さっきみたいに良い子にしていて下さい、夜神くん」 「……」 「他に選択肢はありません。分かりますね?」 「勘弁してくれ……頼むから」 「教会で誓った事を、忘れたんですか?」 「……」 ……止めてくれ。 僕は恐らく今、顔色も酷いだろうし涙でぐちゃぐちゃの顔をしているだろう。 流河がそれを見たら、少しは心動かされるだろうか? ひたりと、冷たい掌が内股に当てられる。 僕は固く目を閉じた。 いや、流河は、きっと目隠しをしていなくても何とも思わないだろう。 僕の涙にも懇願にも、全く動じないに違いない。 そうでなければ「世界一の探偵」なんかやっていられない。 「分かった……分かったから、そっと、優しくしてくれ……。 急に触られると、痛いんだ」 さっきも流河に急に掴まれたり、敏感な所を指先が掠めたりして、怖かった。 「そうでしたか……それは申し訳ありませんでした」 流河は分かっているのかいないのか、表情を変えないままに 片方の手の上に僕の精液を持ったまま、僕のパンツを脱がせようとする。 衣服の上に垂らされては堪らないので、自分で片足を抜くと 満足したように息を吐いた。 「足を広げて下さい。それとも俯せになりますか?」
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